大暴れ
さて、今までのことを思い返してみよう。
人神から手紙と許可証を貰い、フランクといい感じで別れてから旅の扉の前にいる兵士に許可証を見せて旅の扉をくぐった。
うん。問題ない。
何もミスなどしていない。
天界では、兵士に許可証を見せ、人神からの手紙を渡せば難なく天空神の元へと連れて行って貰えるはずだった。
今頃「よくきたな」なんて天空神から言われて、パーティでも開かれているはずだったんだ。
まあ多少予定が狂うとは思っていたよ?
パーティは開かれないとか……
うん、予想していた。
だけど……だけどなぁ……
「幾ら何でも牢屋に入れるとか酷いだろ‼︎」
「お兄ちゃん、なんで私達牢屋に入れられたの?」
「俺にもわからない……いや、おそらく、おそらくだが人神は俺達が天空神のところに行くとは伝えなかったのかも。そのせいで俺達は許可証を偽装して天界に来たと思われてるんじゃないか?」
……くそ 人神め。適当なことしやがって。
帰ったらとっちめてやる。
コツコツコツと階段を降りる音が聞こえてくる。誤解に気づいたのだろうか?
降りて来たのは腰に剣をぶら下げた凛とした貧乳の女だった。
「疑いが晴れたのか?」
「いや、私達は今忙しいのでもうしばらく待ってもらうということを伝えに来た」
「しばらくってどれくらい?」
「半年……いや、一年ぐらいかな」
「待てるか‼︎」
「じゃあそういうことで」
「そういうことで じゃねぇ‼︎さっさと出せ」
女は俺のことを無視して階段を上がって行った。
「お兄ちゃんどうしよう」
「…………」
「お兄ちゃん?」
「ふふ、ふふふふふ」
「ど、どうしようお兄ちゃんが壊れた」
「ラミア準備しろ」
「えっ え?何の?」
「決まってるだろ。脱獄だよ」
俺を無視したことを後悔させてやると、俺は二タッと笑った。
「ラミアこれを持っておけ」
俺は土魔法で作ったあるものを渡した。
「……えっと、お兄ちゃんこれ何?」
「武器だ」
そう、現世ではもっともポピュラーだった武器である銃を俺は作り、渡したのだ。
……まあ、現世の銃に比べたら構造は単純だけど。
「これはどう使えばいいんですか?」
「この弾を銃に入れるんだ」
「銃?」
「今、ラミアが持っているのを銃って言うんだ。ちょっと持つところの底を押してみて」
「こうですか?」
ラミアがカチッと底を押すと弾倉が下に落ちた。
テレビでよく見る弾の入れ替えシーンを思い出して作ってみたが、なかなか良い出来だ。
「その空になったところに用意しておいた弾を入れるんだ。水色は水属性、赤色は火属性と、色ごとに属性を分けてあるから敵に合わせて使う弾をかえればいい」
「どうやって撃てばいいの?」
「銃口を錠前に向けてトリガーを引いてみて」
「う、うん」
ラミアが、おずおずと引き金を引くと、弾は一直線に錠前へ向い破壊した。
それどころか、弾は一向に止まらず壁を次々と貫通していった。
「ありゃ、ちょっと強過ぎたか」
ラミアは貫通した壁を指差し、口をパクパクさせている。
そんなに驚くことだろうか?
「弾渡しておくな。大丈夫だって、頭を撃たないかぎり死なないから。だから頭は撃つなよ」
「コクコクコク」
必死に頷いている。そんなに人を殺したくないのだろうか?
いや、俺も殺したくないから気持ちはわかるんだけどね。
バタバタバタと上から階段を駆け下りる音が聞こえる。
おそらくさっきのことを見張りが見て、慌てて援軍を呼んだのだろう。
俺は牢屋から出て壁に立てかけてあった剣を掴む。普通の剣だが、無いよりはマシだろう。
「さあ行こう。俺達を無視したことを後悔させてやろうぜ」
「うん」
「ま…ぐわっ」「うわっ」「やめ……ぐっ」
ラミアが相手の武器を破壊し、俺が手ぶらになったところを峰打ちで気絶させていく。
途中に魔導師もいたが、詠唱している間になぎ倒していった。
兵士や魔導師を倒しつつ階段をのぼってたどり着いたのは、王の間へと続く大きな扉だったが、俺は何のためらいもなく開けた。
「お邪魔しまーす。誤解を解きに来ました」
「な、お前は」
先程牢屋にやって来た女性が驚いている。
ここにいるということは、それなりに地位が高いのだろう。
「なぜここにいる」
「だから誤解を解きに来たんですって」
俺は剣を捨て、女性の元へと歩いていく。
カチャっと音がした。どうやら俺を警戒しているようだ。腰の剣をいつでも抜けるように構えている。
ま、そりゃそうか。脱獄した奴を、ここまで無事にたどり着いた奴を警戒しないはずが無いよな。
俺は女性の目の前に立ち、懐に手を入れた。
その瞬間、剣が抜かれ俺の首へと吸い込まれていく。
「お兄ちゃん‼︎」
俺はよけなかった。剣は俺の首の薄皮一枚だけを切り止まっていた。
「なぜよけない」
「言っただろ。俺は誤解を解きに来たんだって」
そう言って懐から出した手紙を渡す。
「これは?」
「人神から天空神に渡せって。あと武器を返してくれない?あの武器は両親の形見なんだ」
「なっ じゃあお前はあの二人の……」
「子供だよ。二人が守ってくれたこの命を、ゼロを殺す為に使う。その為に俺は旅をしているんだ」
「そうか、レイとミリアが死んだのか」
女性は剣をしまい、溢れそうになる涙を拭った。
「ついて来い。天空神様に会わせてやる」
そう言って歩き出した女性の後を俺達は追った。




