人神
それからは早かった。十分もしないうちにフランクさんが、迎えに来たのだ。
「早かったですね」
「剣神と賢帝の子供が来たと言ったら、早く連れてこいと即座に言われましたよ」
フランクさんは普段もこれぐらい早く言ってくれたらいいのにと苦笑いしている。
「まあ、それはともかく早く行きましょう」
「そうですね」
そして俺達は神の間と言う部屋の前に連れて来られた。
「ここから先は一人しか入れません。ルイス君失礼の無いように」
「フランクさんこそラミアに変なことをしないでくださいね」
俺の言葉に反応してラミアが大きく後ずさりし、フランクさんがそれを見て苦笑いしている姿を背に俺は部屋に入った。
そこは真っ白な部屋だった。創造神とあった場所を思い出させる。
「我は人神なり。汝何を望む」
「旅の扉の通行証と質問二つに答えて欲しい」
「その前に汝が誠に二人の子か確かめさせてもらう」
「その必要はない。俺は二人に拾われた子だ。二人の子供ではない。だけど、部屋の外にいる娘は紛れもない二人の子だ」
「ううむ……では…」
「父 レイナルド 母 ミリアナは昨日フォレムで破壊神に殺された。これは紛れもない事実だ」
「む……そうか、あの二人が逝ったか」
人神は俺に背中を向ける。二人の死を悲しんでいるのだろうか。背中からはその様子は伺いきれない。
「傷心中悪いけど質問に答えて貰いたい。破壊神とは一体何者なのか。それと、創造神について」
「承知した」
「……なあ、その話し方やめないか?創造神なんてもっと軽いノリで話しかけてきたぞ」
「だが、それでは神としての威厳を損なってしまう」
「創造神のせいで神様のことなんて尊敬の対象として見てないよ。俺の前だけなら大丈夫だろ」
「それもそうだな。では、一つ目の質問に答えることにしよう」
人神は遠い過去を思い出すように目を虚空へと向ける。目を細めポツリ、ポツリと語った。
「遥か昔に破壊神ーーー零と名乗る男がいた。その男は世界中の国を気まぐれに滅ぼしていた。いずれ俺達、五大神の手の届かない国を全て滅ぼされてしまうのではないか、そう思わせるには充分に危険な相手であり、俺達五大神が力を合わせるのにそう時間がかからなかった」
「それじゃあ五大神が自分達の国を離れたということですか?」
神が国を離れると加護が失われてしまう。その瞬間を狙われたら一溜まりもないだろう。
「我々は国を離れたが状況が状況だ。他国も自分達の国を守るのに手一杯で侵略するなど不可能だった」
「なるほど」
他国に侵略すれば魔物から自国を守るのことが出来なくなるから攻めれないってことか。
「話を戻すぞ。俺を含め五大神はある場所でゼロと戦った。」
「ある場所とは?」
「お前が知っている五つの世界に属さない所とだけ言っておこう」
あくまで秘密というわけか。それさえ分かればすぐにでも……いや、それを考えた上で話さなかったのか。
「ゼロとの勝負は初めは圧倒していた。だが、次第にゼロが我らを押し返しはじめたんだ」
「何故?」
「おそらく学習していたのだろう。ゼロは力やスピード、テクニックなどはあったが実戦経験はあまり無かった」
「五大神との勝負で実戦での戦い方を掴んでいったということか」
「そうだ。我らは死闘の末になんとかゼロを打ち破ったのだが、まさか生きていたとは……」
ここで俺が以前から疑問を持っていたことを聞くことにする。
「ちょっといいか?」
「なんだ?」
「創造神と破壊神……ゼロが同一人物という可能性はないか?突然ポッと現れて今の今までお前達に気付かれずにいるなんておかしいだろ」
「その可能性は無いだろう。我らがゼロと戦う遥か昔、この世界が創造神に造られ、我らは唯一神の座を奪うために戦った。完敗したがな」
「そんな創造神がゼロと同一人物なわけが無いというわけか」
とりあえず今はその可能性を置いておくことにしよう。まだ完全にその可能性は否定されたわけではないからな。
「悪いが創造神にしては殆どが謎だ。答えられそうにない」
「わかった」
「これが許可証。そしてこれが我が書いた手紙だ。これを天空神に渡せばスムーズに話が進むだろう」
「ありがとうございます」
まさか手紙まで用意してもらえるとは思わなかった。これはいい収穫だ。
「………ルイス お前は死ぬな」
二人は人神にとってとても大切な友人だったのだろう。二人が死んだことで悲しむ人がいる。もちろん俺にも……
俺はルーシェやラミア、アランさんを悲しませない為にも死ぬ訳にはいかない。
「必ず生きて帰ってきます。人界に帰ってきた時は一緒に食事でもしましょう」
俺は人神と握手をして部屋を後にした。




