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初めての涙

目が覚めると、父様と母様が心配そうな顔で俺を覗き込んでいた。

なんと、俺は一ヶ月も目を覚まさなかったらしい。

隕石の事に関しては二人は触れなかった。おそらく検討はついているのだろうが……

まあ、この件は置いておくとしよう。


だが、そんな事なんかより更に驚くことを父様から告げられた。


一つ目は、修行のことだ。

予定より半年も早く開始されることになったのだ。だが、俺の体調を考えて開始は一週間後になった。


二つ目は、母様の妊娠だ。

今、四ヶ月らしい。

弟か妹なのかまだ分からないが、出来れば妹がいい。生意気な弟より生意気な妹の方が俺的にはご褒美だからな



それからの一週間は長かった。まだ読んでいない本を読んだり、妊娠中なので修行に付き合うことの出来ない母様から治癒魔法のコツなどを教えてもらった。


そうして待ちに待った修行の開始日が訪れたーーが、俺が想像していたより修行は地味だった。

ランニング 一時間 すり足 三十分

筋トレ

腕立て 五十回 腹筋 五十回 背筋 五十回

素振り百回


これを二セット。それで終わりだった。

だが、そんな地味な基礎トレーニングも二歳と少しの俺の体には大きな負担であった。


……次の日、俺は筋肉痛で一歩も歩くことが出来なかった。


筋肉痛を治癒魔法で治してしまっては意味が無いらしく、俺は筋肉痛→超回復→筋肉痛→……のサイクルを繰り返した。

すると、日に日に回数をこなせるようになり、セット数が増えても確実に基礎トレーニングをこなしていった。


それに加え、父様と母様に内緒で夜に家を抜け出し、魔術のトレーニングや基礎トレーニングを続けた。

前世ではこんなことを絶対にしなかったのだが、この体だと何故かやる気がみなぎってくるのだ。


そんな日々はあっという間に過ぎ、半年がたった。

俺は3歳となり、母様は妊娠十ヶ月となった。


母様の出産予定日が近づいて来たので、母様の側に父様がいることになり、俺の修行は一時自主練習という形になった。


与えられたメニューをこなすが、そわそわして集中出来ない。

出産を手伝ってくれる近所のおばさんは、既に子供を五人産んでいて、そのおばさんは、数日前からウチでいつ出産の時が来てもいいように待機してくれている。もちろん、最高の待遇をしている。


任せておけば大丈夫だろ……そう考えていると父様が俺を呼んだ。

「ルイっ ルイ」

俺はトレーニングを中断し急いで父様の元へと向かった。


おばさんとメイドがバタバタと動いている。

そんな中、何もせずにただオロオロしている父様の姿が目に入った。


「父様!」

「ルイ‼︎ああ……良かった、俺、何をすればいいのか分からなくて……ルイ、どうすればいいんだ?」


いや、それをたった三歳の子供に聞いちゃダメだろ。と心の中で思ったが、一切口に出さず代わりにこう言った。


「父様、とりあえず落ち着いてください」

「おう」

「母様は今頑張っています」

「おう」

「こういう時、男は何の役にも立てませんが、とりあえず母様の手を握ってください。母様一人に任せるのではなく、父様も母様を支えるのです」

「わ、わかった」

父様は俺からそう聞くと、一目散に母様の元へと近寄り、手を握りしめた。


……ふぅ、もう大丈夫だろ。難産でも無いし後は待つだけだ。


〜三十分後〜

母様は無事女の子を出産した。

父様は、よくやったと連呼し、おばさんは満足気な表情をしている。メイド達もホッとしているようだ。


「ルイ、ありが……」

父様が俺の顔を見て言葉を止める。

そして俺を抱きしめた。


気がつけば俺の頬には涙が流れていた。

この世界に来てから泣いたのは初めてだった。

前世では、嫌な思いでしか流したことの無い涙が、母様が出産する姿を見て感動し、安心したことにより気が抜けたのだ。


流した涙を止めようとするが止まる気配はなく、逆にどんどん溢れてくる。俺は父様の胸で眠りにつくまで泣いたのだった。


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