ダンジョンでの初戦闘
魔物の気配を探りながら慎重に少しずつ進む。今の所まだ魔物一体とも遭遇してい無いためこの迷宮でどれだけ自分の力が通用するかわかっていない。
だから焦って進むより慎重に行くべきだ。そう自分に言い聞かせてはやる気持ちを抑えて更なる先に進む。
何もない一本道を歩いている。恐らくこの先に大部屋があるのだろう。そう思い気を引き締めるのと殆んど同時に背筋に冷たいものが走った。魔物の気配も無く、物音一つ聞こえない。何も問題は無いはずだった。しかし俺は何か言い知れぬ不安に駆られて全力で横に跳んだ。
俺が地面に身体を投げ出すのと殆んど同じタイミングで上から大量の液体状の物体が落ちてくる。それは数刻前まで俺がいた場所を溶かし、瞬く間に小さなクレーターを作り上げた。
その光景を見て俺はゾッとする。直感を信じていなければ俺はあの物体……いや、元の形に戻り始めたあのスライスに頭から溶かされていただろう。
頬をツーーっと流れる汗を拭い瞬時に臨戦態勢に入る。この隠密能力を持つスライムを侮って戦えば大怪我を負う可能性がある。俺は出し惜しみせずに魔法を放つ。
「『火弾』『雷槍』」
残りの魔力と消費魔力の多さを鑑みると上級魔法一発放てる程度しかない。それを単発で放っても回避されて終わりだ。
俺はスライムの左右に火弾を一発ずつ撃ち、左右の退路を奪う。スライムは元より逃げるつもりがないのかただ真っ直ぐに俺に向かって突進してくる。そこに向かって雷槍を時間差で重ねて放つ。
速さ、威力、貫通力の三拍子を兼ね備えた中級魔法の雷槍はスライムに向かって一直線に飛んでいき、そのまま貫くかと思われた。が、スライムは回避行動を取らず口から酸の弾を吐き出して一発目の雷槍を相殺した。それだけでは終わらず二発目の雷槍も連続で吐き出した酸の弾で相殺、その影から現れた三発目の酸の弾が俺を襲う。
「くっ……『岩壁』」
瞬時に中級を魔法の岩壁を発動させて直撃を防ぐ。スライムが体当たりした場所から壁の溶ける音が聞こえる。
だが、体当たりを回避出来た。その事実に安堵して気が緩んでしまった。たった一瞬……しかしその一瞬が命取りだった。
スライムはいつの間にか岩壁の左側へと回りこみ、俺に突進してきていたのだ。それに気づけたのは全くの偶然だった。ただ、予想外の出来事に驚き硬直してしまう。そのせいで、スライムが魔術すらも使う事の許されない距離まで迫っていた。
俺は咄嗟に左腕を前に出してガードする。スライムはガードして左腕を包み込み、籠手の硬さなんて関係ないとばかりに溶かしていく。
凄いスピードで溶けていく籠手を見て左腕の骨ごと溶かされるのを幻視した俺は決断して初級魔法を放った。
「吹き飛べ『爆発』」
籠手の内側で発動した『爆発』によって籠手がスライムを巻き込みながら弾け飛ぶ。俺の左腕も無事では済まなかった。手首から先は吹き飛び、吹き飛ばなかった部位も焼け爛れて見れたものじゃない。
俺は激痛を堪えながら露わになったスライムの核を神殺しで両断した。
両断すると核の元に集まろうとしていた体が動きを止めて地面を溶かしながら消えていった。
それを見届けた俺は壁を背にしてその場に座り込んだ。
「……剣が使えず、魔法に制限がかかるとここまで苦戦するのか。この戦闘だけで何度か死にかけたし……これは修行をやり直した方がいいかな」
そう言いながら俺はボロボロになった左腕を見る。回復魔法を使えれば直ぐに治せるのだが、治療出来るほどの魔力が残っていない。
「取り敢えず『水球』」
残り少ない魔力を使って水球を作り出してその中に左腕を突っ込む。
激痛で意識が飛びそうになるがここで倒れてしまってはいつ死ぬか分からない。俺は歯をくいしばって激痛に耐えながら始めの部屋に戻る為に歩き出した。
数日間始めの部屋で療養して推測が確信に変わった。やはりこの部屋には魔物が出現する事の無い安全地帯らしい。暫くはここを拠点として探索を進める事にした。
あ、それと滅神級の魔法はやっぱり使えなかった。左腕を完治させようとしてみたのだが魔力が一瞬で空になって一晩寝込む事になった。その後も検証を重ねた結果今の俺では魔力が満タンの状態でも詠唱ありの帝王級魔法一発で魔力が尽きてしまう。という事で戦闘の仕方を考えなければいけなくなった。
あのスライムみたいに剣が使えない相手が出てきた場合、今回のような戦い方をしていたらいつか死ぬ。
……色々考えたがやっぱり基礎から鍛え直すしか無いな。
今まで魔術は殆んど無詠唱だったからその分魔力の消費も大きかった。だから当面の目標は詠唱を短く、かつ無駄な魔力の消費を抑えて消費魔力を少なく出来るようにしたいと思っている。
始めはここを抜け出すのは数ヶ月あればいけると思っていたが下手すると数年かかるかもしれないな。
そんな嫌な考えが脳裏をよぎるが、直ぐに切り替えて少しでも早く脱出出来るように修行を再開した。
ダンジョン編は多分これで終わりです。
長くなると違う話になりそうなので……
サイドストーリーとしてダンジョンの事は書いていきたいと思っています。
8月までにキリのいいところまで書いて受験勉強に集中したいと思っていますのでそこらへんはご理解して頂けたらと思います。
これからもよろしくお願いします。




