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S.A.A.C― special action arms corps 〈戦鬼〉  作者: 黒百合
序―始まり/壱/弐/参
3/4

弐/絶海の少年

それはこちらの予想をはるかに越していた。

その後日本は技術だけではまだ及ばないものがあることに改めて気付かされる事になる。


沖縄本島沖600キロの太平洋上、凄まじい戦闘があった。



すじ雲に凍るような空の蒼。乾ききった風がヒュウヒュウ口笛を吹く。

そんな中、風すら置いていくようなスピードで7式が飛んでいく。

その全長およそ7メートル。計算しつくされた美しい曲線をかく、複雑な装甲は蒼穹に映える純白。陽光に照らされ白銀に煌きらめく。

全体の形は見たところ蜻蛉(トンボ)を摸もしている。特に黒い4枚の翅のようなものがそれということを表していた。

外見はさほどゴツくないが、装備はすべてこの国の貴重な最新技術の塊だ。


『こちら7式黒耀。敵機到着予定時刻10秒前で間違いないか』

『ええ。OKよ。健闘を祈るわ......あとねあとね!帰ってきたらーーー』


本部との通信を終え(その後に続くのは特に興味がないと思われる内容なのでブッツリ切ったが)、頭の中に流れてくる外の景色と作戦実行座標ポイントを重ねた。


―『目標地に急接近する。音速飛行カウントダウン開始。作戦開始カウントダウン開始』


頭の中で言葉を連ねる。


―了解ッス!!

―了ー解!


すると機体の背後の雲影から二機の小型飛行機が現れた。これらは補佐機であり量産型。先程の機体と比べてやや小さく、全長およそ4メートル。昔と変わらない、二等辺三角形そのもののような形をしている。軍とは別にS.A.A.Cの研究開発チームが独自開発した無人機S85−2型カナリア、これでも装備は一丁前で最新の型である。


―『行け!!』


背後に円錐型の雲を残し、編隊(エレメント)が視界から音もなく消え去った。




日本にはS.A.A.C―通称『戦鬼』という兵器がある。



オリジナルモデルの戦車や戦闘機にサイボーグが搭乗、互いの脳をリンクし、五感を共有。敵を超高性能の武器で攻撃するのが主な任務だ。

その全貌は明らかにされていないが、部隊は特殊で軍とは別に設置されていること、規格外の戦闘能力を誇ることだけは日本国民に知らされていた。

概要としては1式から7式まで存在する。またそれぞれの装備には少々のかたよりがあり、空戦向き、地上戦向き、遠距離、中距離、近距離向きなど得意不得意の特徴が見られる。

しかしいずれにせよ彼らが繰り広げる戦闘は神業に等しく、空想科学そのもの。それ故に戦いの鬼―《戦鬼》と呼ばれ、この世に現れてから2年たってもまだ敵国だけではなく日本でも恐れらる存在であった。

攻めに来た編隊も彼らに目の前に立ちはだかれたら震え上がってそそくさと自国に逃げ帰ったとか。

また日本の上空を飛んでいたら、遥か下、地上にいる市民に拝まれたとか。



今回の任務担当は近距離の空戦を得意とする7式、《灼熱》と黒耀。S.A.A.C全7機中の7機目。最後の個体だ。

防御力は若干劣るが、蜻蛉(トンボ)の2対の翅を活かした神速と讃えられるスピード及び、機体の―ちょうど蜻蛉の尻の部分を尋常じゃない熱量で超高温化してそれを敵に叩きつけて分断する、超高熱ブレード―いわゆる空・地共に超近距離での撃墜速度は他の誰よりも秀でていた。

そんな彼ご自慢の神速で分厚い雲を突き抜けるたびに凄まじい風圧でそれを裂き、かき分け、その先にある晴れ渡った空を何の咎めもなく一直線に突き抜ける。そして彼はただ一点に意識を集中した。

睨む先は濃い雲の中に見え隠れする敵機。こちらは強力なステルスを持っているので気付くそぶりもない。


さあ、撃墜の始まりだ!


まったく気づかない敵を前にして、7式はあらためてS.A.A.Cの高性能さを体感する。

そしてカウントダウンがとてつもなく長い一秒を最後に終わり、

作戦は始まった。

まずは追随。7式の闘いはいかに敵に気付かれずに急接近するかによって勝敗が決まる。

しかしものの1秒とたたないうちに敵のちょうど真後ろ―6時方向の方位角0度、敵より少し上方までたどり着くと、漆黒の双翼を持つ大きな量産型戦闘機がやっと反応し、慌てて上方へのブレイク・ターン(垂直方向の旋回)を試みる。


―『遅い!』


7式はループを始めた敵にターニング・ルームされないよう、大きなラグ角を取りエネルギーを温存。敵となるべく寄り添うように更に追尾。

機動に唸るエンジン音と空気を裂く甲高い音が交じる。

敵は今頃こんな物理学を無視したようなハチャメチャな機動に冷や汗をかいているだろう。ここに戦鬼がいるとわかっていて日本の海に入ってくるほうが悪いのだが。

そして敵機の機体の背面に小さな影が落ちる。

それが何によるものか、考える必要はない。むしろ考える余地すら与えない。

彼は慈悲もなく敵機の背後上を独占すると。


―『超熱』


一見照準もせず、適当にぶった切っているように見えるその斬撃は急所を的確に狙っている。敵はそれを左右上下に起動し、華麗に回避。さすがコンピューターシステムで動かされている戦闘機だ。

しかし鬼のような機動は甘くない。

敵にとって当たらぬ算段だった超高熱ブレードが魔法のように横幅の広い体に当たった。

切断面がドロドロに溶解して敵は真っ二つに両断された。

真っ赤な炎が吹き黒い煙がブスブス立ち昇る。

実に2秒弱のことであった。


―2機目、五時の方角!!


次はいつの間にか消え、敵の2機目の後ろにまわっていた補佐機がチェーンガンで撃破。

轟々と音を立て、燃えながら砕けた装甲の破片が遥か下の海へ落ちていった。


―2機目、破壊ヲ確認シタッス!


3機目は7式の後ろにいたので、背後にありえないまわり方をして割く。跡形あとかたもなく破壊。

その後も同じように50回か、100回か、数え切れないほどの敵機を斬り刻んだ。



―『制圧完了!』


いつしか視界が開け、目の前には数分前と同じ、壮大な空。今はその空を7式が独占している。


筈だった。


ヒュンッ!!


何かが横を通り過ぎた。

何かが―いや、これはミサイルだ。


敵は、全て排除したはず―。

誰がこんなモノをと思ったその時、7式の機体のほうがけたたましい警報を鳴らした。


―《海上に戦闘機の搭載戦艦を発見!/かなりの大型です!!ーーー解析中/ーーー解析中/データ無し/並び類似データ無し/危険!/危険!/危険!》


彼の奇声を聞くによると単機ではこの状況を打破できそうにない。無数の警告に視界が赤く染まる。

すると本部管制室も7式がいる海域の異変に気付いたらしい。通信をしてきた。


『黒耀くん!何よこれ!?どうしたのよ!?』

『僕もよくわからない。解析中だ!とにかく危険らしい』

『にしてもヤケにでかいわねー!......もーん!ちょうどクリスマスのケーキができたとこってのにーッ』


呆れた。こんなご時世に副隊長は何をやってるのだか。話にならない。


『ーッ!!とにかく司令とかわれ!!』

『彼は前の戦闘から戻ってきたばかり!!メンテ中よ』


支援を頼みたい時に限ってタイミングが悪すぎだ。


『もうこうなったら、とにかく。とにかく早く撤退して!単機じゃリスクが高い!態勢を立て直すわ!』


―撤退。撤退。

負けをあらわす言葉を電脳内で反芻はんすうする。


ここで負けを認めていいのか?


せっかくここにいい獲物がいるというのに自分は逃げるのか?また、いつか我が国の国民を殺し殺しまくる大敵を見てみぬふりをするのか?

ーいいや断じてできない。


そもそも態勢を立て直しているうちに陸が攻撃されたらどうなる。未確認体ゆえどんな舵を取るかわからないのだ。


答えはー、


『ー。僕の任務はこの領域の敵の殲滅。よって7式、行きます!!!』

『あ!!あぁぁ!まっ!』


プツリと通信を切る。無理難題でもやるしかない。

やるしかないと決めたからにはやる!

視界を覆い尽くすような黒い翅に再び白いライトが輝き7式が戦闘態勢を取り直した。

そして静かに7式の機体に語りかける。


―勝ちたい。任務だからにはちゃんとこなしたい。それは当たり前でひいては国民を守ることになる。だがーここは勝たなくてもいい。大きめの損害を与えるだけで離脱する。少々無茶をしたいと思うのだが、どうだ?


―《危険と思われますのであまりお勧めできません》


―『では飛行による消耗は?』


―《15%/問題ありません/並びに解析結果報告/我々と同じ、完全自己修復能力があります/追記、防御固し》


完全自己修復能力―。《戦鬼》の人々でさえその性能に身震いを覚えることがある能力。それは日本が開発し、門外不出となっていた技術、敵国には到底作れない物の筈だ。

なぜそんな物なのに敵が今持っているのか―。

不安がよぎるがそこは僕の専門外だ。その辺りは後日改めて副隊長に聞いてみよう。

どうやら機体にたいした消耗はなさそうだ。


―『そうか......。』


たっぶりと空気を吸い込んで演算開始。電脳に流れる戦闘の3Dシュミレーション。


―《まさかー......!やめてください!!》

―『嫌だ!時間がないんだ!今僕がやらなくて誰がやるっていうんだ!』


なぜ僕はあの後あんな判断をしたのだろう。

自分の強さに酔いしれていたのか。それとも危険な物体と知っていてなお、いつまでたっても技術的進歩がない敵をなめ尽くしていたのか。

それは多分違うと思いたい。

わからない。

どうしてあんな捨て身の攻撃をしたのだろう。

わからない。


―でもあの時僕の頭の中で変なことが起こっていたのは事実だ。

突然電脳内に映像が流れ込んできて、なにかこうーそう何かが爆発したような。

そんな感じだった。

その時その映像に対して怖い、と思った。

ー何故か。見覚えがあるような。

蜻蛉型兵器。これが私の好み!

といかうかこれのミニミニバージョン実在するんですよ!最新兵器でぐぐってみるとあります。

その実験映像を見てみました。確かにきれーな飛行をしていてね、私驚きました。いやはやかっこいい///。

ということでこれにはまっちゃって、主人公にプラスさせていただきました!

まあ、あの尻の部分で切断する攻撃体制はトンボの交尾映像から思いついたんですけれども......^^;

にしても最新兵器ググり続けるの大変でした。作者としては主人公に色々スキルアップしてもらいたいですからね!


------予告------

次回は今のところ分かっているこの国(日本)のーそして世界の情勢です。

なぜ、僕たちは―私たちは戦っているのか。


それはもちろんー......


------追記------

カッコの説明

・『』〜本部との秘匿通信。これは外部に漏れないように一応なっている。遠くでも使える。

・―『』〜機体とサイボーグのリンク時のサイボーグの方の発言。

・―〜補佐機の発言。リンクはしないので、これは秘匿通信。地上では日常会話など機械音声でできる。

・―《》〜機体の発言。リンクしていてもしていなくてもこの表示をします。

・×式、《》と××(名前)〜S.A.A.Cにおいての番号と機体名と名前。

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