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S.A.A.C― special action arms corps 〈戦鬼〉  作者: 黒百合
序―始まり/壱/弐/参
2/4

壱/黄昏の少女

爆破された戦車と噴煙ふんえん立ち昇る大地。どこまでも破壊された物で埋め尽くされている。



「軍曹ぐんそう!?軍曹ー!!」


ボロボロな少女が何度も何度も目の前に静かに眠る男の名を呼んでいる。

男ー青年のあり様はひどいものだった。両手と片足がなくなっているうえ、右頬は銃弾が何回も貫通した跡があり原型を留めていない。そこからは渇かわくことなく血が湧き出ている。

永遠に目を覚まさないとわかりきったことだったが、少女にとって彼はかけがえのない存在なのだ、

叫ばずにはいられなかった。


「約束したじゃないですか。いっしょに......一緒に帰りましょうって!ねえ。......軍曹......」


瞳から大粒のしずくが滴る。

落ちた涙は、乾いた大地にいくつもの斑点を残した。

そして大きく息を吸ったかと思うと両膝をついて心臓圧迫をし始めた。胸をグッグッと押すたびに切断面から血が噴射して顔が、服が汚れることも構わずに。


「な......ん......で」

「軍曹、死んじまったのか」


少女の背後から見慣れた顔の壮年が腹をかばいながら歩み寄ってきた。 軍曹より二階級下の同級生の篠木兵長(しのぎ へいちょう)である。

すでに手当してもらっているようだが、こちらももだいぶ負傷しているようだ。


「兵長......!どうしよう!!」

「整備士の嬢ちゃん。死んだ人間は生き返らない、だろ?ほら、安らかに眠らせてやろうじゃないか」


兵長が少女の隣に腰を下ろす。少女は鼻をすすりながら少し驚いたようにこちらを見た。


「俺だって泣きてぇ気分だ」

「え?あ......はい」


兵長のそんな穏やかな声音を聞いたのははじめてのことだ。穏やかさの中には疲れとどうすることもできない悲しみが混ざり合う。


「最期まで立派だったよ。自ら最前線に立って、なぁ......」

「はい。それにこんな流れ者の私を家に置いてくれました」


それぞれの記憶の破片を集めていく。

その時、少女は心にぽっかり穴が空いたような感覚に陥っていた。これから独りぼっちでどう生きればいいのかがわからなかった。


「帰ろう。嬢ちゃん」


空ろな顔が彼を眺める。


「兵長。軍曹を、軍曹を運べますか?」

「いいや。俺は一人で歩くんでも精一杯だ」

「私に彼を―運べると思いますか?」


バツの悪い顔をした兵長がそっと少女の腕を引いた。

彼女はまだ戦場の悲惨さとえげつなさを知らない。それはできれば見て欲しくないことだ。


「帰ろう」

「......」

「自分の命が惜しくなければここにいれば良い。だがーもうまもなく『死体狩り』がくる。そうしたら俺達も......殺されるだろうな。あいつらの目的は多分だがな、殲滅だ。だから」


「私、残ります」


兵長の声に重ねて少女は呟く。


「な......」


頑とした、軍曹を置いていくわけにはいかないという意志に兵長はたじろいだ。

しばらく唸る兵長だっだが、意を決したように少女の手を離すと唇を噛み締めながら数歩あとずさった。


「俺はー行くからな!クソッ!軍曹は俺ら部下を守るために死んだってのにーーー」



数十メートル先で何か大きな車両のエンジン音と瓦礫を砕く音が兵長の声をかき消した。



「ー!!!嘘だろ!?」


兵長が目を剥いて、ぼうっとしている彼女に駆けより肩を揺すった。


「行くぞ!!おい!嬢ちゃん。二等整備兵!!」

「え?」

「来たんだよ!来たんだ!!『死体狩り』が!!!!」


彼にはあの音が死体狩りのものだとすぐ分かった。

何度も経験した戦場で、何回あいつらに死んだ戦友を持っていかれたか。

兵長は訳の分からない様子の少女を引っぱって無理に歩かせた。


「したいがりって......?」

「今は黙って逃げろ!」

「嫌だ!いやだぁッ!離して!!」

「ダメだ!」


兵長は傷ついた足をもつれさせながら、軍人という名に恥じない腕の力で彼女を引きずる。血の上から土を浴びせられ、少女の顔がたちまち真っ黒になった。


「あ。あぁ!軍曹!!待ってよ!!」

「いいから逃げろって!お前が死ぬと軍曹、悲しむだろうが!」

「ーーーーッ!!」


また失った。大切な者を。かけがえの無い存在を。



今度こそ彼女に立ち上がる術はなかった。



ーーーあの後軍曹がどうなったのか彼女は知らない。

けれどあの日の光景は目に、心に焼き付いている。


ついでに思い出したから言っておこう。

軍曹と過ごした最後の朝、彼はおっとりとした口調で語った。


―今回の戦いは今までとは違う。多分―俺の生きれる時間は長くない。だから最初に謝らせてくれ。ごめんな、先に逝ってしまって。君がいてくれたおかげで俺の人生、最後までやりがいがある。


まったく、やりがいを語るなんて彼らしい発言だ。それにこの発言が数時間後に本当になるなんて皮肉そのものだ。

その後彼女の顔にかぶさる髪を耳にかけてあげてから、呟いたのだった。


―守りたいものがあるなんて、俺は幸せ(・・)ものだ。

今回は少女―ヒロインの二年前のことを書きました。

絶望があって......これから少女はどのようにして立ち上がるのか。


次回は少年版です!少年―主人公を襲った絶望とはー!

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