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女は恐ろしい

「はい!シャクシャク歩く!」



「何その氷上的表現」



「しっかり歩けって事よ」



移動中、すれ違う生徒の好奇の視線にさらされながらも一組に到達する。


すぐさま香織はドアにへばり付き、小さな窓から様子をうかがう。もちろん腕は離さない。



「あっれー?レーダーに反応なしであります、隊長殿」



「うむ、こうなれば直接TOUZYOUを送り込むしかあるまい」


香織の妙なキャラに即座に対応する亜美。東条の発音だけがやたらネイティブであった。




「何してるんだか…」



「あ…」


そんな即興コントに呆れていると、横から漏れた驚きの声。三人が横を見るとそこには栗毛ポニーテールの小さな少女。



「この節穴レーダーが!」



「すいません!隊長殿!」


ハイテンションの二人に対して、桜花は眉間にしわを寄せ、一歩退く。



「はい!千種!紹介!」



「…こんにちわ、桜花さん。えっと、同じクラスの立花香織さんと山瀬亜美さん。お友達になりたいらしいんだって。じゃあ、よろしくね」


そう言って足早に去ろうとする千種。しかし、二人がそれを許す訳も無く未遂で終わる。



「何でそんな逃げるかなぁ?押し倒そうとして失敗したか?うん?」



「いや、何か気まずい秘密を握られているに違いない」


好き勝手言う二人とうなだれる千種、そしてそれを少し珍しそうに見る桜花。



「昔の馴染みに会うって何か恥ずかしいじゃない?幼稚園以来だなんてどんな顔して話せばいいのか、ね?」



「え?あぁ、うん、そうね。ちょっと恥ずかしいよね」


桜花も千種の意図を読み取ってか、すぐに話を合わせる。



「うん…うん、これは、予想以上ですぞ」



「ふひひ、オジサン好みのイイ体だ」



「いい加減、真面目に話したら?」


相変わらず香織が率先してふざけて、亜美がそれに乗っかる。埒が明かないと見た千種が静止に入る。



「ういうい、分かったわよー。こんにちは、桜花ちゃん。香織で良いわ、よろしくね」



「亜美やんと人は呼ぶ」


それぞれがっちりと握手を交わす。



「じゃ、俺は飯食いに行くから」


その隙をついて千種は足早にその場を去る。それこそ、最後の方は聞き取れないぐらいに鮮やかな去り際であった。



「全く、困ったちゃんだこと」



「あの…二人は東条君とは同じクラスなんだよね?」



「うん?そうよ。何なら一年の時も一緒」



「その…東条君ってクラスではどんな感じなのかな?」


相変わらず遠慮気味に、上目づかいでそう言う。というか、二人に比べ背が低いために自然とそうなるのだが。


二人はそんな質問に目を合わせて、同時に深いため息。



「さっそくダシに使われるとは…」



「東条が好きで好きで堪らないのよ。察してあげなさい」



「違っ!違う!ち・が・う!そういう感情は無いの!」


顔を真っ赤にして二人を揺する。しかし、二人はにやにやと笑ったまま。



「まぁ、冗談はさておき、千種は大体あんな感じよ」



「何度かあなたも見てたでしょ。わざわざクラスまで来て」



「え…ばれてた?」


「え、来てた?」



「先々週の水曜日、金曜日、先週の火曜日と水曜日、今週は…昨日と今日の朝もチラっと覗いてたかしらね」


唖然とする桜花をよそに淡々と述べる。香織は苦笑いを浮かべるばかり。



「亜美やんはね、本ばっか読んでるように見えるけど、しっかり見てるし、聞いてるのよ。うっかり悪口なんて言った日には…」



「夜道は背後に気を付けた方が良いわ」


眼鏡と口角を上げて、小さく笑いを漏らす。桜花の背筋がくっと伸びたのは言うまでもない。



「ま、私が思うに、桜花は千種の近くに居るって事かな。あと、もう一人の子も」



「…そうなのかな?私、すっかり嫌われてるよ」



「うんにゃ、そうじゃないね。嫌ってるんじゃない、驚いてるの。一気に自分の懐に潜り込まれたからね」



「東条があれだけ誰かとの接触を嫌がるなんて相当珍しい事よ」



「そうそう、あいつ外面だけは良いからね」


香織はニヤニヤとそう言う。亜美は腕を組んで何度も頷いていた。



「千種は誰とでも仲良く出来るスキルがあるけど、一定以上は絶対に近付けさせないのよ。桜花はどういう訳かその領域まで入っちゃってるっぽいのよね」



「うんうん」


頷きながら真剣な眼差しで香織の話を聞く桜花。



「あー、駄目だ!超絶可愛過ぎる!!」


香織の中の何かが弾けて、桜花を思いっきり抱きしめにかかる。いきなりの事で桜花は体を強張らせる事しか出来ない。それを良い事に桜花の背後に回って頭の上に顎を乗せたまま香織は話を再開する。



「だからー、桜花にはガンガン近づいて行って欲しいのよねー」



「でも、近づいたら嫌われちゃうんじゃないの?」



「ノンノン、衝突を恐れては友人にはなれても親友にはなれね。あれ?なれな?」



「なれぬ」



「そうそれ。つまりはそういう事。それは千種のテリトリーに入った桜花にしか出来ない事なのさ」


亜美の補足を受けながら、香織はそう言い切る。相変わらず桜花を肩の上から抱きしめ、締まらない表情で左右に揺れたままであったが。



「うん…うん、頑張る。香織ちゃん、亜美やん、ありがとう!」


いきなり振り返ると満面の笑みで香織に逆に抱き付く。振り返って亜美にも笑顔を見せる。



「わお!まさかのご褒美キター!」



「くっ、律儀に亜美やんと呼ぶその純真さが…萌える!」


何やら体を震わせて悶える二人。状況が理解できず、目を丸くして首を傾げる桜花。しかし、すぐにまた晴れやかな笑顔を見せる。その顔は憑き物が落ちたように爽やかであった。

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