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日常、小さな変化

「おはよう!千種」



「…おはようございます」


翌朝、千種が自宅であるマンションを出ると、そこには可憐なと形容して良いであろう少女の姿。桜花も一緒だ。



「うん、なかなか良いマンションだ」


当の本人は正面玄関前で呑気にマンションを見上げて呟く。



「なるほど。しつこい、ね」


「そう、しつこいんだ」


千種が歩き出すと、凛もそれに続く。違う制服を着た少女と歩くというのは中々に新鮮ではあった。



「ちなみに何で自宅がばれてるのかな?」


「昨日あの後雪に尾行させたからに決まってるだろう」


「ですよね…」


学校に近づくにつれて増える同じ制服と突き刺さる視線。男一人に女二人というのはまだ許容されても、異なる制服、そして華のある容姿は看過できないものがあるのだろう。



「凜子さんは学校に行った方が良いんじゃない?」


「ふふ…心配無用。少し遠回りになるが間に合うんだな、これが」


遠まわしに厄介者払いを試みてみた千種だが、何故か凜子が得意げになるだけだった。



「こうして毎日歩いていれば、嫌でも関係が出来るな」


「…俺は認めないけどね」


「他人の認識から生まれる関係があってもいいと私は思うぞ」


横を見れば相変わらずの悪戯な笑顔と少し伏し目な顔。その後、凜子は本当に校門の前まで来て、そこでようやく自分の学校に向かった。



嵐が去った後は大人しいもの。千種が先を歩き、その三歩程後ろを浮かない表情の桜花がちょこちょこと付いていく構図になった。



「あ、あのさっ!」


ようやく口を開いたのはグラウンドを横切って下駄箱で靴を履きかえるところになってからであった。相変わらず桜花の両手はリュックの持ち手を握りしめていた。



「…昨日はごめんなさい。無理矢理連れ出して…たぶん、凄い嫌な思いをさせたんだよね」


「いいよ、昨日の事は無かった事にするから。前と同じように生活すればいい話だし。凜子さんにもそう言っておいてよ」


そう言って歩き出す千種。しかし、桜花はその前に立ちふさがる。そして、伏していた顔を意を決したように勢いよく上げる。



「それは違うよ。凛みたいに格好良い事は言えないけど…それは違うって事は分かる。能力を憎んだとしても人を憎んじゃ駄目」


「そういう訳じゃないよ。ちゃんと友達はいるし、仲良くやってる」


「そうだけど…」


言葉に詰まる桜花を置いて千種は歩き出す。



「でも、やっぱり違うよ…」


下唇を噛んでいた口が発した呟きは彼には届かなかった。





教室に入った千種を待っていたのは友人一同による質問攻め。そして、今朝の謎の状況に関しての弁解。



「桜花さんとは幼稚園が一緒だったんだ。俺は気付かなかったけど、向こうがそれに気づいたらしくて。それを確認したかったんだって。

知らない男に話し掛けるのが緊張したって言ってたよ。朝のもう一人は桜花さんの友達で、学校がこっちの方だから一緒に来ただけ。俺にまだ春は来そうにないね」



用意していた言い訳を並べる。後は人の好さげな笑顔を並べて、いなすだけ。


興味深々だった友人たちも授業が始まれば否応なしに現実に組み込まれ、ゴシップのようなネタへの関心も薄れる。



「千種!ちょっとあんた!今朝の可愛い子二人誰!?」


もちろん例外もいるわけで、金髪セミロングの多少化粧っ気の濃い彼女がその典型であった。

昼休みになると同時に千種の前の席の男子をどけて反対向きに椅子に座る。



「え?そうかな?香織さんの方が全然可愛いと思うよ」


「そんな下手な世辞に騙される訳ないじゃん。さっさと吐けコラ」


仕方がないので、千種は今朝と同じ説明をする。相槌を打ちながら目を輝かせて話を聞く。



「ふーん…千種にその気は無いの?」


話を聞き終わって一言。彼女はどうしてもそういった方向に持っていきたいらしい。



「そうだね。可愛いとは思うけど」


「あんたもったいないね。私が男ならあんな可愛い子放っとかないのにさ」


頬杖を付きながら大きく溜め息。しかし、すぐに口角をくいっと上げて顔を千種の方に寄せる。



「ね、千種。紹介してよ。私のカワイイ子ちゃんパワーを補充させてくだせぇ」


「うーん…無理かな」


「なんでー!ね、亜美やんも紹介して欲しいよねー!」


大きな声を横に向ける。皆が昼食の準備をする中、窓際でハンディタイプの文庫本を読む銀縁眼鏡を掛けた長い黒髪の少女。

まるで絵画から飛び出したかの様な彼女は読みかけの本を静かに置くと、無表情のままこちらにやってくる。そして一言。



「そうね、紹介して欲しいわ」


千種を睨んでいるかのよな鋭い目つきでそう言った。香織は満足そうに笑って勢いよく席を立つ。



「さっすが亜美やん!さ、一組行くよー!」


千種の腕を強引に掴み、立ち上がらせる。



「いや…昼休みだし、取りあえず昼ご飯食べてからでいいんじゃないかな?」


「大丈夫、早弁してるから」


苦笑いを浮かべる千種。しかし、もう片方の腕も亜美にがっちりと掴まれて逃げ場をなくしてしまった。

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