夕暮れ色に溶ける温度
放課後の教室に差し込む夕日が、机の表面を赤く染め上げていた。時計の針が刻むカチコチという音だけが響く静寂の中、僕と真央はふたりきりで残っていた。
「ねえ、まだ終わらないの?」
真央が隣の席の椅子を引き寄せて腰掛け、僕の手元を覗き込んでくる。その瞬間、彼女が身につけているシャンプーの甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐり、思わず心臓が跳ね上がった。
「あともう少し。この数学のプリントが終わったら一緒に帰ろう」
動揺を隠すようにペンを走らせる僕を、真央はじっと見つめている。少しの間、心地よい沈黙が流れたあと、彼女は悪戯っぽく微笑みながら小さな声でつぶやいた。
「…ねえ、手、出してみて」
言われるがままにペンを置き、手のひらを上に向けて差し出す。すると真央は、自分の小さくて柔らかい手をそっと重なるように重ねてきた。そのまま細い指が僕の指の隙間に滑り込み、ぎゅっと指を絡めてくる。体温が直接伝わってきて、頭が真っ白になった。
驚いて真央の顔を見ると、彼女の頬は夕日の色以上に真っ赤に染まっていた。
「ずっと、放課後にこうしてみたかったの」
照れくさそうに、でも少し背伸びをしたような表情で微笑む真央。その笑顔があまりにも愛おしくて、胸の奥がギュッと締め付けられる。僕は解けそうになった指先に力を込め、繋いだ手を力強く握り返した。
「……僕も。真央のこと、ずっと好きだったんだ」
ずっと言葉にできなかった想いが、口から溢れ出た。真央は目を丸くしたあと、嬉しそうに目を細めた。
「知ってる。だって、私が見るたびにいつも顔赤くしてたでしょ?」
「うぐっ……気づいてたの?」
「ふふ、当たり前じゃん。ずっと見てたんだから」
悪戯っぽく笑う真央の瞳には、赤面する僕の姿がはっきりと映っていた。
「じゃあ、付き合ってくれる?」
僕が意を決して尋ねると、真央は握った手にさらにぎゅっと力を込め、僕の肩に頭をぽんと預けてきた。
「うん。こちらこそ、よろしくね」
耳元で聞こえた囁くような声に、胸の高鳴りはもう止められそうになかった。窓の外ではすっかり街が茜色から群青色へと移り変わろうとしていたけれど、繋いだ手から伝わる温もりは、いつまでも消えそうになかった。




