第1話 退屈な終わり
今日も退屈だ。
私はカウンターに頬杖をつき、冒険者たちの喧騒をぼんやりと眺めていた。
テーブルでは筋骨隆々のファイター二人が腕相撲に興じ、壁際では初心者らしきパーティが依頼書を睨みつけ、奥の席では昼間から酒盛りを始める中年冒険者たちが笑っている。
「そういえば先日、魔の森林のカブトドラゴン討伐にSランクパーティーが向かったらしいな」
「ああ。でも、あれは命懸けだろ。Sランクでも危ないって話だ」
「まぁ…俺たちBランクには縁のない話だな」
そんな会話も聞こえてくる。
ギルドには、いつだって様々な光景がある。
だがーー事件も、謎もない。
……退屈だ。
改めて名乗ろう。
私の名前はシャロ・エルキー。
王都近郊のギルドで受付嬢をしている。
もっとも、これはこの世界での名前だ。
元の世界では遠藤紗代。二十四歳。
職業、私立探偵。
ここでの名前は、自分の好きな名探偵達の名前を少しもじったものを名乗っている。
浮気調査、失踪人捜索、企業間トラブル――依頼があれば何でも請け負った。
だがある浮気調査で、依頼主の夫とその愛人の関係を暴いた結果ーー
逆恨みに遭い、命を落とした。
そして目を覚ましたら、ここだった。
異世界転生。
まさか本当に存在するとは思わなかった。
けれど、勇者にもならなければ特別なスキルもない。
与えられたのは、平凡な人生だけ。
……まあ、命があるだけマシか。
今はこうして受付嬢として働いている。
戦うのは嫌いだし、安全なのは悪くない。
ただーー
謎がない。
それだけが、少し物足りなかった。
そんなことを考えながら、依頼書の処理をしていた、その時だった。
ーードン。
ーードン。
ーードン。
重い音が三つ、同時にカウンターへ落ちる。
そこにあったのは、黄金色に輝く巨大な角が三本。
先日クエストを承諾した、Sランククエストのカブトドラゴンのツノ。
「討伐完了だ」
低い男の声。
「報酬をいただきに来たわ」
艶のある女の声。
「一億マーネ。早く振り込んでくれ」
無愛想な声。
私はゆっくりと顔を上げた。
そこに立っていたのは、三組のパーティーのリーダーらしき三人。
全員が、同じことを言った。
カブトドラゴンは、自分たちが倒した、と。




