貴方は分かっているのですか?
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伯爵家の娘であるサンティナ・スカットーラに婚約者が出来たのは学園に入る直前の15歳の秋だった。
お相手は父親の親しい友人の息子でヒューゴ・エゼキエーレ。エゼキエーレ侯爵家の嫡男であり次期侯爵の将来有望な17歳の男性である、父親は学園で可愛い娘に悪い虫がつかないようにと尊敬する人の息子と婚約を結んだ。
彼はキャラメル色の柔らかな髪と、この国に多い晴れた日の空の様な瞳の優し気な男性で、初対面にも関わらず話を弾ませてくれる優しい人だった。そんなヒューゴにサンティナが惹かれるのはそんなに時間がかからなかった。二つ上の彼と1年だけでも同じ学校に通えることを喜んでいた。
しかし、現実はそう甘くなかった。学園に入学すると彼の隣にはいつもヒューゴの幼馴染という女性がいた。彼女の名前は、イヴァナ・ナーヴェ男爵令嬢、蜂蜜色のふわりとした髪は日に当たるとさらに煌めきミントグリーンの優し気な瞳はいつも楽しそうに弧を描いていた。
サンティナとヒューゴは学年が違う。教室はもちろんのこと空き時間が違うのも致し方ない。しかし、昼食は時間が合うはずだった。しかし、ヒューゴはたびたび友人と食事を摂るとサンティナとの食事を断った。サンティナも、残り1年しかない学園生活を友人と過ごしたいのだと自分に言い聞かせて納得した。
だが、その日食堂で見たのは、イヴァナと二人っきりで食事をするヒューゴだった。サンティナは眉を顰めたが、友人たちが今から来るのだろうとその日は何も言わずに過ごした。しかし、それ以降もヒューゴとイヴァナの2人で食事をとっている様子は度々見られた。
「ヒューゴ様。お食事をどなたととっていらっしゃいますか?」
「幼馴染のイヴァナだよ。彼女はなかなか同性の友人が出来ない様なんだよ。だから、私が仕方なく食事を共にしているんだ」
「では、私もご一緒しましょうか?イヴァナ様も社交界に出ましたら女性社会に入りますでしょう?私も先輩方と仲良くしたいですわ」
「そうか。そうだな。聞いてみるよ。でも、イヴァナは人見知りだからあまり期待しないでくれ」
ヒューゴがそう言って1ヶ月が経つが、イヴァナやヒューゴとの食事は結局まだ叶っていない。そうこうするうちに、イヴァナの蜂蜜色の髪に銀細工のサファイヤブルーの石が嵌った髪飾りが彩るようになった。サファイヤブルーはヒューゴの瞳の色だった。流石のサンティナも、これは良くないと思い。ヒューゴに尋ねる。
「ヒューゴ様。イヴァナ様のあの髪飾りは贈り物でしょうか?どなたからなのかご存じですか?」
「あぁ。あれは、私からだよ。イヴァナは妹の様に可愛がっているからね。だが、卒業するとそうも言ってられないだろう?だから、絆のようなものが欲しいと言われてね。
流石に、首飾りやイヤリングの宝飾品は婚約者に贈るものだろう?先日、出かけた際に雑貨店で丁度いい石の嵌った髪飾りがあったから贈ったんだ」
「ヒューゴ様・・・。髪飾りも宝飾品に入ります・・・・」
「はぁ~。雑貨屋で買ったものが宝飾品になるはずはないだろう?イヴァナとはただの幼馴染だ。心配ない。彼女も分かっている」
サンティナは何も言えなくなった。『彼女も分かっている?』そう。彼女は分かっている。相手の石の入った髪飾りも恋人同士や婚約者に贈るものだという事を。つい二日前に、廊下ですれ違った際に、わざわざ「彼から頂いたの貴方を差し置いてごめんなさいね」と言いに来たのだ。
その頃には、学園中の噂になり、友人たちからは心配された。サンティナもそろそろ決断をしたい思っていた。確かにサンティナはヒューゴに好感を持っていた。しかし、出会って間もなくこうも婚約者を蔑ろにするのであればその気持ちはだんだんと萎んでいくものである。
そして、サンティナはヒューゴのことを父親に相談していた。今、婚約がなくなれば学園は後2年もある。婚約者を探すことは侯爵や伯爵は難しいだろうがどなたか見つけることが出来ると思っていた。
サンティナも、それなりに良い成績をとっているので城に出仕したり、家庭教師の職も見つけることができそうだから嫡男にこだわってもいなかった。
だが、サンティナの父親が尊敬する人であるヒューゴの父に心酔しており、その息子のヒューゴがそんなに愚かな事をするわけないというのである。サンティナがいくら訴えても父親の返事は変わらず、サンティナはヒューゴの父親に不躾ではございますがと手紙を送った。
そこで、ヒューゴの父であるエゼキエーレ侯爵は、何度も何度もスカットーラ伯爵邸に赴いて下さり話し合いをした。エゼキエーレ侯爵はサンティナから事情を聞くと、独自の調査を行い。その結果、何度もサンティナに謝り、婚約を解消しても、ヒューゴ有責で破棄してもいいと仰って下さった。しかし、サンティナの父親はますます侯爵の優秀さと懐の深さに心酔し、尊敬する人との縁を諦めきれずに婚約の解消の手続きをしてくれなかった。
ある日も、3人で話し合いをする約束でエゼキエーレ侯爵が来訪していた。しかし、所用で出かけた父と母は揃ってトラブルがあったのか時間に戻らず、謝罪をしながらエゼキエーレ侯爵をサンティナがもてなしていた。最近、良く顔を合わせる侯爵はもう18歳になる息子がいるようには思えないほど若々しいと思って年齢の話になったら34歳であるという。
父の尊敬する人と紹介を受けたので、お若い見た目だが年上だと思っていたら父よりも5つも下であった。それは、エゼキエーレ侯爵の婚約者との関係の為だと聞いた。ステファノ・エゼキエーレの婚約者は、その時の情勢と派閥を考慮してステファノが10歳の時に決まった婚約者だった。ステファノは彼女を心から愛していたが、婚約者の方が5つ上も上であったので見目の美しいステファノの婚約者として同年代の令嬢令息より揶揄されることとなった。
しかし、ステファノは心から愛する彼女が年齢を理由に侮辱されることを良しとしなかった。その為、通常であれば15歳で入る学園に11歳で受験し合格。さらに、入学してからも飛び級に飛び級を重ね。5歳上である婚約者が18歳、ステファノが13歳の時に一緒に卒業し、1年後14歳の頃に婚姻。それから2年が過ぎた頃にヒューゴが生まれた。ステファノは16歳で父親となった。
そんな亡くなった奥方の話も臆面もなくする人当たりの良さは、上位の貴族であるのに話しやすかったので話はその他にも何かと弾んだ。そして、サンティナは思い切ってある提案を侯爵に持ち掛けた。
「しかし、それは・・・・」
「でも、この方法しか父は納得しないと思います」
「だが、君はいいのか?」
「はい!私は、むしろ・・・」
さきほどまでの説得する勢いを失い頬を染めるサンティナに侯爵は、何度か固辞した侯爵が折れた。サンティナの熱意に負け了承し、条件を付きで約束を受け入れられた。
「1つは、ヒューゴが卒業式のファーストダンスの相手に誰を選ぶかで最終決定とする事。
2つ目は、万が一にもヒューゴがサンティナ嬢を無下にした場合、ヒューゴは廃嫡とする」
「ファーストダンスの件はわかりましたが、廃嫡ですか?それでいいのですか?」
「私も今まで通り、ヒューゴを諫めるよ。それでも、あの子の行動が変わらないのであれば周囲の思惑や噂に疎いヒューゴは侯爵になり得ない」
「・・・・・左様でございますね。彼の周りの友人たちは彼らを応援していますが、それが今後どうなるのかを存じているかもしれませんね。若気の至りで皆さま済むのでしょうか」
「それは、彼らの今からの行動と責任だよ。君が気に病むことでは無い」
サンティナの父である伯爵がやっと家に戻ると、二人は先ほど話をしたことを説明し父親を驚愕させたが、ヒューゴ君もそこまではしないだろうと父親は言い。サンティナの条件に了承した。これから、3か月後の卒業パーティーまでの行方を見て最終的には卒業パーティーのファーストダンスの結果、婚約を破棄するという事で話は纏まった。
それから、ヒューゴが婚約者への贈り物の予算でイヴァナのドレスを作成したことから色々準備が始まった。サンティナはエゼキエーレ侯爵からドレスを贈られ、エゼキエーレ侯爵はナーヴェ男爵と職場の上司へと連絡を取り始めた。
◇◇◇
卒業生は、卒業式に出てから卒業パーティーの準備をする為に忙しい。しかし、学年違いの婚約者がいる場合、パートナーを務めて貰うので迎えに訪れるはずだった。しかし、ヒューゴからは前日に卒業パーティー前にはイヴァナを迎えに行く。2人を迎えると時間に遅れる為、サンティナは父であるエゼキエーレ侯爵が迎えに行くことになったという手紙を受け取った。
エゼキエーレ侯爵は、覚悟を決めて下さったのだとサンティナは心がキュッと締め付けられる思いだった。卒業式の日、サンティナは自身の瞳の色である薄紫のアイリスの様な生地の胸元に赤茶色の光沢のある糸で右肩から腰回りに向けてバラの刺繍が施されているドレスを身に纏い。首元と耳は、青空の様に光を放つサファイアで彩られた。
「サンティナ嬢。美しいよ」
「子供っぽくはないですか?」
「いやっ立派な淑女だ」
スカットーラ伯爵邸の玄関ホールで行われたエゼキエーレ侯爵とサンティナの会話も何とも言えない顔の伯爵と華やいだ顔の伯爵夫人は二人を送り出した。
エゼキエーレ侯爵は、サンティナの薄紫のドレスに合わせ白を基調として薄紫の刺繍は施されているフロックコートに胸元はオリエンタルブルーのポケットチーフで彩られていた。二人は対の装いになっていた。
会場に着くと、エゼキエーレ侯爵とサンティナは、ヒューゴを探す。ヒューゴはイヴァナと密着と言っていいほどの距離感でエスコートをしておりサンティナは足を止める。声をかけないのか?と問うエゼキエーレ侯爵に首をフルフルと横にふった。
「ファーストダンスの声がかかるまで近くにおりますが・・・・・、ヒューゴ様に踊っていただけない場合。ステファン様が踊っていただけますか?」
サンティナは、エゼキエーレ侯爵。ステファノ・エゼキエーレに問いかけた。エゼキエーレ侯爵はもちろんだと重々しい口調で了承し息子であるヒューゴを見つめる。
卒業生が揃ったところで、王族である第一王子の祝辞が行われ卒業パーティーが始まった。続けて、第一王子と王子妃のダンスが行われ、続いて卒業生たちの高位貴族よりダンスが始まる。
やはりとは思うが、ヒューゴはサンティナの元には戻らずイヴァナとファーストダンスを踊り始めた。同じ侯爵家の人々は驚きながら二人から距離を取りダンスを始めるが、奇異の目はヒューゴとイヴァナを視線に捉えずにはいられなかったのだろう。ちらちらと周囲の人間たちは2人を見ていた。
一緒に連れ立っていた仲間たちも、一緒にいた場から外れて行った。そんなことを気にも止めずヒューゴとイヴァナは二人だけの世界にいるように微笑み合い2曲踊った。そんな彼らを目の当たりにしてエゼキエーレ侯爵は目頭を押さえたが切り替えるようにサンティナに向きなおりダンスを申し出た。
サンティナも、喜んでと微笑みダンスホールへとエスコートされる。ステファノとサンティナがダンスを始めても暫しの間、ヒューゴは気がつかなかった。次にサンティナと踊るために、先ほどまでサンティナがいた観覧スペースを探していたからだ。すると、隣からイヴァナの華やかな声が耳に入る。
「まぁまぁ。サンティナ様。男性と踊ってらっしゃるわ。ヒューゴ様と踊れなくて仕方なくお相手を見繕ったのかしら?」
「まさか!サンティナは、社交ダンスは初めてだぞ!私と以外踊るはずがないじゃないか」
と、呆れたようにヒューゴは言い。イヴァナの指し示す方向へ目を向ける。そこにいるのは言わずもがなサンティナとヒューゴの父であるステファノ・エゼキエーレ侯爵だった。ヒューゴはポカーンを口を半開きにして凝視する。
「ふふっ。あの方はどちらから、いらしたのかしら、確かに美しいですけど、どなたかの保護者の方では無くて?そんな方にしかお相手してもらえなかったのね!」
隣のイヴァナの囀りが、ヒューゴの耳に届くが返事の相槌さえ打てない。男性は、確かにヒューゴの父であるが他の保護者より若く見える。年齢もさることながら、見た目も若々しいのだ。誰かの兄ではないかと周辺では囁かれた。
つまり、今は34歳のステファノは、他の保護者より5歳から15歳ほど若い。男性の方が年上であれば、20歳だろうが40歳だろうが離れていても不思議ではない貴族社会で、18歳差であり、美しく若い容姿のステファノとサンティナは少し年の離れたカップルのようにしか見えない。
2人のダンスが終わると、ヒューゴは足早に二人がダンスホールから下がる場所へ向かった。もちろん、左手にイヴァナをぶら下げているのでイヴァナは転ばないように必死にヒューゴに合わせながらゆっくり歩いてと手を引く。しかし、ヒューゴは速度を緩める事なくどんどんサンティナと父であるエゼキエーレ侯爵へと近づく。
「サンティナ!父上!何をなさっているのですか!」
「あぁ。ヒューゴ。卒業おめでとう。良く頑張ったね」
「あっありがとうございます。しかしっ!父上!」
「まぁまぁ。ここは祝いの席だ。事を荒立ててはいけないのは分かるね。ヒューゴ」
ヒューゴの剣幕に、父親であるステファノは優しく諭すように話を返すがその何でもないことの様に話す父親にヒューゴは苛立つ。
「何を言ってるんですか!父親が息子の婚約者とファーストダンスを踊るなんて聞いたことありません!父上は何を考えていらっしゃるんですか!」
ヒューゴの声が、会場中に響き渡る。あぁ。駄目だなとエゼキエーレ侯爵は第一王子へと目くばせする。この様に注目を集める前であれば用意していた別室で話をしようと思っていた。しかし、ここまで騒いでいるのであればここで引導を渡すべきなのだろう。
もろもろの手続きを行うために上司である第一王子とも打ち合わせをしていた。廃嫡処分は王家へ申請しなくてはならない。第一王子も呆れた顔で顎をふいっとヒューゴに向ける。やれという合図だろう。第一王子とアイコンタクトを取っている間に勢い着いたヒューゴはサンティナに目を向け責め始めた。
「君もだ!サンティナ!婚約者がいるのにも関わらず、その父親であるとしても別の男とファーストダンスを踊るなんて!ふしだらな女性だと思われたらどうするんだ!ここで、私が父親であると周知しなければ侯爵家に泥を塗ることになっていたんだぞ!」
「侯爵家に泥を塗ったのはどなたでしょうか?」
勢い着いていた、ヒューゴの発言を地を這うような低い女性の声が止める。女性はもちろんサンティナだった。そんな声を出せるのか。とヒューゴとステファノが驚いている間にサンティナも戦闘態勢になった。
「あなたは!イヴァナ様の将来をお考えになっていらっしゃるの!」
(((イヴァナ様???)))
ステファノを含めた会場中の全員が何故と言う顔になる。もちろん、ヒューゴも何故急にイヴァナの話になったのかと食って掛かる。
「イヴァナの将来とはなんだ!今は、サンティナの話をしているのだ!」
「貴方はイヴァナ様とご結婚される気がありますの?」
「はぁ。またその話か!イヴァナは幼馴染だと何回も言っているだろう?私には其方と言う婚約者がいる。婚約者なのだから友人関係にまで目くじらを立てないで頂きたい」
ヒューゴの言葉に顔を青くしたのはイヴァナである。今まで、婚約者との約束より優先されたり、瞳の色の髪飾りを贈っておきながら・・・今先ほどは、さらに卒業パーティーのファーストダンスを2曲も連続でイヴァナと踊っておきながらイヴァナとは『幼馴染だから結婚はしない』とはっきりと明言した。そんな、ヒューゴに異議を言いたかった。しかし、複雑な感情に苛まれたイヴァナの声が発せられるより早く心の内の声が別のところから耳に入る。
「貴方は、淑女の時間をなんだと思っているのですか!」
シンッと大勢いるはずの会場が静まり返る。サンティナはわなわな震える右の拳を左手で押さえ続ける。会場も何故、今イヴァナの話をするのかは疑問だったがサンティナの言わんとしていることは大体悟った。ずっと、学園中で噂となっていることだったから。
「貴方の軽率な行動で、イヴァナ様の評判に傷がつくとは思わなかったのですか!」
「イヴァナの評判?」
サンティナの声は、悲痛なほど震える。
「イヴァナ様は18歳の成人の年ですよ!わが国では学園卒業を迎えるとともに婚姻が主流ですので結婚適齢期でございます。更にあと2年も過ぎればすれば行き遅れと呼ばれるようになります」
「なんと、酷いことを!君はそんなに性格が悪かったのか!」
ヒューゴは恰も、自身はイヴァナを庇う優しい紳士だとでも思っているのだろう。ヒーローの様に声を張り上げてサンティナに暴言を投げつける。
「酷い事ではありません!事実です!」
周囲の人々は静観の様子をとっているが、ほとんどの人がサンティナの意見に納得してうんうんと頷いている。特に女性は顕著に反応している。そんな中、サンティナは震える声で尚も言い募る。
「イヴァナ様は、婚約者のいる男性と距離をつめお話しになって、婚約者のいる男性の瞳の色の装飾品をして、婚約者のいる男性の婚約者がいるにもかかわらずファーストダンスを踊ったのですよ!」
「それくらいのことで、目くじらを立てるなと何度言えばわかるのだ。まだ婚約者の決まっていない幼馴染の願いをかなえてやることがそんなに悪い事なのか。流石に、其方と結婚した後はそのような事は叶えてやれないだろう?」
イヴァナの唇は青くなり震え、顔からは色味を失って呆然と立っている。今までの学園での恋人同士の様なふれあいは婚約者のいない幼馴染の願いを叶えてるだけだと・・・イヴァナは最後には自分が選ばれると思っていたから目が回りそうだった。
「悪いと言っているのです!聞いておりましたか?イヴァナ様は婚約者のいる男性に言い寄るふしだらな女性であると周囲から思われるとは思わなかったのですか!私は何回も、何回もお話ししました。学園ではあなた方を応援するような風潮になっておりましたが、それは貴方方の周囲の人間だけです!今の状況を見てもまだわからないのですか?」
「はぁ。君が喚くからだろう?イヴァナがふしだらなんて酷い言い草だ。仲の良い妹の様な幼馴染を可愛がって何が悪いんだ!」
「イヴァナ様は幼馴染ではありますが、妹ではございませんし、ヒューゴ様とイヴァナ様は同じ年です。誰が妹の様に可愛がっているという言い訳を信じるのですか?」
サンティナは悲しそうに問いかける。イヴァナもヒューゴの物言いに衝撃を受けサンティナが何を言わんとしているかがわかり、初めてサンティナに申し訳ない気持ちを持った。サンティナは今、ヒューゴの所業がイヴァナを貶める事だと憤っている。ずっと仲良くしていた憧れの幼馴染の婚約者の立場を奪う事しか考えていなかった自身を恥じた。
「ティナ。もうそこまでにしなさい」
ステファノの優しい声がサンティナを止める。そして、ヒューゴとイヴァナに向き合い優しい大人の男性の声色で語り掛ける。侯爵家の当主という威厳を纏いながら周囲を見渡す。
「さて、ここまで大事になってしまっては最後までここで終わらせるしかないだろう」
「どういうことですか?父上」
「ヒューゴ・・・・・・・・失望した。君は私とサンティナ嬢のダンスを咎めたが、君は誰とファーストダンスを踊った?」
「父上もですか?イヴァナですよ。父上も、幼馴染のイヴァナをご存じでしょう?」
「あぁ知っている。我が妻とナーヴェ男爵夫人が親友だったからね。妻が亡くなるまでは、よくお会いしていたから、よく知っていたよ」
「母が亡くなったのは、8つです。悲しみにくれる僕を夫人とイヴァナが慰めてくれました。父上は夜は一緒に居てくれましたが昼は二人が僕に寄り添ってくれたのです!」
「そうだね。だから、ナーヴェ男爵と結婚の話をつけたよ。イヴァナ嬢、ヒューゴの事をよろしく頼むよ」
「はっはい!」
喜色満面のイヴァナの隣で、ヒューゴは愕然とした顔をしている。今まで、恩人の様な話をしていた幼馴染と結婚できるというのに声を荒立て異議を唱え始めた。
「何を言っているのですか!私の婚約者はサンティナでしょう!?」
悲鳴のような声だったが、周囲も何を言っているのかはお前の方だと思った。しかし、ヒューゴはさらに続ける。
「イヴァナは妹の様な存在です。結婚なんて!それに、私はサンティナを愛しています!私の目の色に近いオリエンタルブルーの艶やかな髪も、アイリスの花の様な美しい瞳も思慮深い考え方も完璧な令嬢なんですよ!サンティナほど侯爵夫人にふさわしい女性はそうそういない!彼女を手離すなんて。侯爵家の損失です!」
「そうだね。彼女は賢く侯爵家の夫人になるのにふさわしい女性だね」
ステファノがサンティナを見ると、サンティナは照れたように頬を染める。
「だから、彼女はエゼキエーレ侯爵夫人になる」
「「え???」」
((((((んん???))))
初めて会場とヒューゴの気持ちが重なった。
「ヒューゴは、ナーヴェ男爵家に婿入り。しかし、イヴァナ嬢には兄上がいるから、次期男爵の補佐になるね。それか、城に出仕してもいいが・・・ヒューゴは官吏の試験に受かるほどの成績では無いし、騎士になれるほどの技量もないからなぁ。まぁ、侯爵家からは廃嫡ではあるが除籍はしないよ、お婿にだしてあげるから心配しないで、それから、サンティナは私の後添えとなった。次期侯爵はサンティナに頑張ってもらうことになる」
「なっ!20近くも離れている娘を娶るのですか!サンティナが可哀想ではないですか!後添えとなったとは何ですか!いつ決まったのですか!」
「エゼキエーレ侯爵令息!あなたが、イヴァナ様とファーストダンスを踊った時ですわ!それに、私は可哀想ではありません。侯爵家の名誉にかかわりますのでお伝えします。ステファノ様の後添えを望んだのは私です!」
サンティナが叫ぶように答える。もちろん、この場にはイヴァナの保護者であるナーヴェ男爵夫妻も卒業生の保護者として会場に居た。書類は事前に用意されており第一王子殿下のダンスが終わり二人のダンスが始まった時点でお互いに婚約の書類にサインを交わした。
ヒューゴとサンティナの婚約破棄の書類に必要なサンティナの父親スカットーラ伯爵のサインは、エゼキエーレ侯爵が伯爵邸にサンティナを迎えに来た時点でなされていたが、エゼキエーレ侯爵のサインは男爵家と書類を交わす前に入れ、嬉々として近づいてきた第一王子殿下に渡し受理されていた。
事前の根回しにより、各々の手続きは他に類を見ない早さで締結されていた。
「では・・・・・サンティナは義母になるのですか・・・・」
「だから、何度も貴方は分かっているのですか?と問うたではないですか・・・・」
「私も何度も話をしたんだがね」
ずっと小言を自己解釈していた、ヒューゴは呆然とサンティナは義母・・・と言い続け、ずっと聞き流され放置された言葉をサンティナは呆れたようにつぶやく。その後は、快活に笑う第一王子が面白い余興であったと、放心状態のヒューゴとイヴァナを近衛兵に支えてもらい別室に移すと卒業パーティーを楽しんでくれと締めくくった。
物語に詰まると気分転換に物語をかく。
内職の息抜きに、裁縫をする義姉の気持ちが分かりました!
~登場人物~
サンティナ・スカットーラ伯爵令嬢(16)
スカットーラ伯爵家長女*弟1人*髪:オリエンタルブルー、ストレートロング*瞳:アイリス
ヒューゴ・エゼキエーレ侯爵令息(18)
エゼキエーレ侯爵家長男・一人っ子*髪:キャラメル色、ショート*瞳:サファイヤブルー
イヴァナ・ナーヴェ男爵令嬢(18)
ナーヴェ男爵家長女*兄1人*髪:蜂蜜色、ふわふわくねくねロング*瞳:ミントグリーン
ステファノ・エゼキエーレ侯爵(35)
エゼキエーレ侯爵当主*髪:赤茶、センターパート、ストレートシュート*瞳:サファイヤブルー
第一王子(25)
きらきら




