第6話 今夜のルール
待機者名簿が一通り埋まった。
机の上に紙が重なった。
帰宅した生徒がいる。
学校に残った生徒もいる。
残った生徒はこれから寝る場所を決める。
悠斗は倉庫端末を見た。
画面の下の残り時間が減っている。
《暫定:残り 21:58》
「また減ってるな」
朔が端末を見て言った。
「残り時間は減るだろ」
悠斗が言った。
「分かってるけど嫌だな」
朔が言った。
ひよりは名簿の紙を指でそろえた。
ひよりの手が止まると、周りの生徒も少し静かになる。
「先生」
ひよりが言った。
「今夜のルールを決めましょう」
先生は頷いた。
先生は疲れている顔だ。
でも先生の目は逃げていない。
「分かった」
先生が言った。
「今夜は学校に残る生徒がいる」
「混乱を増やさないように」
ひよりは紙を一枚出した。
ひよりは見出しを書いた。
【今夜のルール(決める項目)】
・消灯時刻は何時にするか
・見回り係は誰が、どこを、何分おきに回るか
・消灯後にトイレへ行く時のルール(人数と記録)
・立ち入り禁止にする場所(危ない場所の指定)
・点呼のやり方(何時に、誰が、どこで人数を確認するか)
「項目が多いな」
朔が言った。
「項目が多いと迷いが減るでしょ」
ひよりが言った。
悠斗は周りの生徒を見た。
不安な顔がある。
眠そうな顔もある。
苛立ちそうな顔もある。
苛立ちは揉め事につながる。
揉め事は配布や名簿を止める。
悠斗は止めたくなかった。
「消灯時刻の案はあるか?」
先生がひよりに聞いた。
「二十二時がいいです」
ひよりが言った。
「理由は何だ?」
先生が聞いた。
「早めに眠らないと明日のパフォーマンスが低下するからです」
ひよりが言った。
先生は頷いた。
「消灯は二十二時にする」
先生が言った。
「全員に回してくれ」
「え。早くない?」
朔が言った。
「早いほうがいい」
ひよりが言った。
「寝ないと判断が雑になる」
「判断が雑だと何かあったときに揉める」
朔は口を尖らせた。
でも朔は頷いた。
「見回りの手順も決める」
先生が言った。
「人選は篠宮に任せる」
「決まったら私に一度言ってくれ」
「見回り係を作ります」
ひよりが言った。
「二人一組です」
「教室と廊下を回ります」
「勝手に外へ出る人を止めます」
「俺もやろうか?」
朔が悠斗に聞いた。
「朔はやって」
ひよりが言った。
「朔は声が大きいから注意する役に向いてる」
「褒めてる?」
朔が聞いた。
「褒めてる」
ひよりが言った。
「じゃあやる」
朔が言った。
ひよりは悠斗を見た。
ひよりは目で聞いてくる。
「悠斗もやる?」
ひよりが聞いた。
「俺もやる」
悠斗が言った。
「俺は倉庫の近くを見たい」
「端末が鳴ったらなるべく早く気づきたい」
「わかった」
先生が言った。
「見回り係は二人一組で交代制にする」
ひよりは紙に書いた。
ひよりは見回りの交代表を作った。
ひよりは担当の欄に名前を書いた。
ひよりは確認欄も作った。
その時。
倉庫の近くから小さな声がした。
「食料をもらえませんか?」
声は小さい。
でも周りの生徒が反応した。
視線が集まる。
空気が少し硬くなる。
声を出したのは男子生徒だった。
男子生徒はひよりを見ている。
男子生徒の手は空だ。
「配布は一人一回だよ」
ひよりが言った。
「俺はまだもらってないです」
男子生徒が言った。
ひよりは配布記録の紙を開いた。
ひよりは男子生徒の名前を探した。
「ここに書いてあるよ」
ひよりが言った。
「受け取りの欄にサインもある」
「それは俺じゃないです」
男子生徒が言った。
「俺の名前はこんな字じゃないです」
悠斗は配布記録の名前を見た。
読みは同じだ。
でも漢字が違う。
悠斗の頭に短い言葉が落ちた。
記録改変。
「ひより」
悠斗が言った。
「この人の名前の字が違う」
「記録のほうの字が違う」
「またか」
ひよりが小さく言った。
ひよりは男子生徒に向けて言った。
「分かりました」
ひよりが言った。
「今は追加で渡せないけど」
「代わりに確認をさせて」
「確認って何ですか?」
男子生徒が聞いた。
「クラスと席と担任の先生の名前」
ひよりが言った。
「知っている先生が顔を見て確認する」
「確認できたら明日の朝に整理する」
「今は食料が足りないんです」
男子生徒が言った。
「だから今は全員一回で止める」
ひよりが言った。
「今ここで例外を増やすと、次はもっと揉める」
先生は男子生徒の顔を見て言った。
「配布記録では受け取りになっている」
先生が言った。
「だが、記録の表記が違う」
「今夜は追加配布はしない」
「明日の朝に確認して整理する」
男子生徒は唇をかんだ。
男子生徒は頷いた。
「分かりました」
男子生徒が言った。
その時。
倉庫端末が鳴った。
ピ。
悠斗の身体が少し震えた。
嫌なタイミングが続く。
画面に白い表示が出た。
短い文だ。
《消灯後の移動は記録を要する》
悠斗は指を近づけた。
悠斗は触れる寸前で止めた。
悠斗の頭に短い言葉が落ちた。
規約改変。
「来た」
悠斗が言った。
「何が来た?」
朔が聞いた。
「新しいルールだ」
悠斗が端末を示した。
ひよりが画面を読んだ。
先生も画面を読んだ。
「消灯後の移動」
ひよりが言った。
「記録を要する」
先生が言った。
「トイレはどうする?」
朔が聞いた。
「トイレに行けないの?」
「行ける」
ひよりが言った。
「ただし記録する」
「一人で行かない」
「二人で行く」
「わかった」
先生が言った。
「消灯後の移動は記録する」
「記録用紙を作って運用に入ろう」
ひよりは紙を出した。
ひよりは見出しを書いた。
【消灯後の移動記録(夜の移動は必ず書く)】
・名前(移動する本人)
・行き先(例:トイレ/保健室/先生の所)
・同行者(必ず一人以上。同行者の名前を書く)
・出発時刻(出た時刻)
・戻った時刻(戻った時刻)
・確認係サイン(確認係が見てサインする)
ひよりは周りに言った。
「夜に動く人は、この紙に書いてから行ってください」
「戻ったら、戻った時刻も書いてください」
「確認係は誰がやる?」
先生が聞いた。
「私と朔」
ひよりが言った。
「俺もかよ?」
朔が言った。
「朔は学校に残ってるし」
ひよりが言った。
「だから確認係」
「理由が雑じゃない?」
朔が聞いた。
「雑じゃない」
ひよりが言った。
「動ける人を置く」
「それが今夜の運用」
「分かった」
朔が言った。
「俺は確認係もやるよ」
悠斗は端末の残り時間を見た。
時間は減っている。
でも決めたルールは紙に残った。
見回りの交代表も紙に残った。
消灯後移動記録も紙に残った。
《暫定:残り 20:41》
悠斗は紙束を持った。
紙束は分厚くて重い。
悠斗は紙束の重さで分かる。
今夜のルールがここに残っている。
「悠斗」
ひよりが言った。
「なに?」
悠斗が聞いた。
「今夜は倉庫の封筒は触らない」
ひよりが言った。
「今は水と食料が先」
「分かった」
悠斗が言った。
朔があくびをした。
「早く寝たい」
朔が言った。
「寝る前に点呼」
ひよりが言った。
先生が前に出た。
先生は生徒を見て言った。
「これから点呼を取る」
先生が言った。
「各教室は名簿と人数を合わせて確認する」
「夜に移動する時は必ず最低二人以上で動く」
「消灯後に動く人は、移動記録を書いてから行く」
「戻ったら戻り時刻も書くこと」
「守ってくれ」
悠斗は頷いた。
悠斗は今夜のルールを頭に入れた。
悠斗は明日の朝に備えた。




