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第5話 拠点での夜

 帰宅希望の生徒が下校した。

 残る生徒も拠点での役割を振り分けた。


 悠斗は倉庫前に戻った。

 水はまだある。

 食料もまだある。

 でも端末の残り時間が気になる。


《暫定:残り 26:11》


「時間減るの早いな」

 朔が端末を見て言った。

「早いと思うのは俺たちが見過ぎてるから」

 悠斗が言った。

「じゃあ見るのやめる?」

「やめたらそれこそ不安が増える」

 悠斗が言った。


 ひよりは紙を机に並べた。

 配布記録。

 外出記録。

 帰宅記録。


「帰宅希望の人はみんな帰った?」

 ひよりが先生に聞いた。

「近い家の生徒だけ帰した」

 先生が言った。

「学校に戻る基準は伝えました?」

「伝えた」

 先生が頷く。


 ひよりが悠斗を見る。

 目だけで聞いてくる。


「今夜、残る人数は?」

「まだ分からない」

 悠斗が言った。

「分からないなら数える」

 ひよりが言った。


 ひよりは紙を一枚出した。

 見出しを書く。


「待機者名簿」

「教室」

「体調」

「連絡先」

「確認係サイン」


「待って。連絡先は無理じゃね」

 朔が言った。

「番号だけでもいい」

 ひよりが言った。

「圏外でも?」

「紙に残すため」

 ひよりが言った。


 先生が小さく息を吐く。

 先生は疲れている。

 でも声は崩さない。


「篠宮。手伝ってくれる生徒を増やせるか」

 先生が言った。

「増やします」

 ひよりが即答する。


 ひよりは周りを見る。

 周りには不安な顔がある。

 でも聞く姿勢の顔もある。


「手伝える人」

 ひよりが言った。

「配布係」

「名簿係」

「掃除係」

「見回り係」


「係が増えたな」

 朔が言った。

「増やさないと回らない」

 ひよりが言った。

「回らないって何」

 朔が言った。

「やるべきことができなくなる」

「食料と水が渡せなくなってもいいの?」

 ひよりが言った。

「それは絶対に嫌だ」

 朔が言った。


 悠斗はその会話を聞きながら倉庫の奥を見る。

 封筒はまだある。

 まだ開けない。

 今重要なのは水と食料だ。


 その時。

 倉庫端末が鳴った。

 ピ。


 悠斗の背中が冷える。

 嫌なタイミングだ。


 画面に白い表示が出た。

 短い文だ。


《待機者は滞在場所の登録を要する》


 悠斗は指を近づけた。

 触れる寸前で止める。

 頭の奥に落ちた。


 規約改変。


「来た」

 悠斗が言った。


「何が来た?」

 朔が聞く。

「新しいルールだ」

 悠斗が端末を示す。


 ひよりがすぐ端末を見る。

 先生も覗き込む。


「滞在場所の登録」

 ひよりが声に出した。

「教室を決めろってこと?」

 朔が言った。

「多分」

 悠斗が言う。


 先生が額を押さえる。

 先生は迷っている。

 迷うと場が揺れる。


「先生」

 ひよりが言った。

「今決めましょう」

「どこに集める?」

 先生が言った。


 ひよりはすぐ答えた。


「一年は一階」

「二年は二階」

「三年は三階」

「体調が悪い人は保健室」

「保護者連絡が必要な人は職員室前」


 先生が頷く。

 先生は意外と早い。


「それでいこう」

 先生が言った。


 ひよりは紙を増やした。

 名簿の紙だ。

 見出しを追加した。


「滞在場所」

「教室番号」


「登録ってどこにするの?」

 朔が言った。

「紙でやる」

 ひよりが言った。

「端末に入れないの?」

 朔が言った。

「入れない」

 ひよりが言った。


 先生がひよりに聞く。


「確認係は誰が見る?」

「私と朔で見ます」

 ひよりが言った。

「おい俺もかよ」

 朔が言った。

「さっきからいるじゃん」

 ひよりが言った。

「それ理由になってない」

 朔が言った。


 ひよりは朔を見た。

 目が強い。


「朔は声が大きいし元気」

「それで列が動く」

「だから必要」


「褒めてるのか?」

 朔が言った。

「褒めてる」

 ひよりが言った。

「じゃあやる」

 朔が言った。


 悠斗は少し笑いそうになる。

 笑うと場が軽くなる。

 今はそれが大事だ。


 生徒が倉庫前に集まる。

 ひよりが前に立つ。

 声は落ち着いている。


「帰れる人は帰った」

「ここに残る人の名簿を書く」

「滞在する教室も書く」

「迷ったら先生に聞いて」

「絶対に一人で動かないで」


 生徒が頷く。

 紙が回る。

 ペンが回る。


 悠斗は名簿を見た。

 さっきの配布記録ほどは揺れていない。

 でも一つだけ気になる。

 同じ名前が違う字で書かれている。


 悠斗は声を小さくした。


「ひより」

「なに?」

 ひよりが言った。

「名簿でも表記が違う」

 悠斗が言った。

「どこ?」

 ひよりが紙を覗く。

「ここなんだけど」

 悠斗が指す。


 ひよりはすぐ判断した。


「今は書き方を統一するべきね」

「とりあえず、ひらがなで書き直すから」

「元の字は後で書く」


「後で?」

 朔が聞く。

「今は時間が惜しい」

 ひよりが言った。

「わかった」

 悠斗が言った。

「わかった」

 朔も言った。


 先生が一歩近づく。

 先生の声は硬い。


「名簿は私が預かる」

「教室ごとに分けて保管する」

「また、夜に点呼する」


 ひよりが頷いた。


「先生。鍵の管理も決めましょう」

「倉庫の鍵は篠宮が持っててくれ」

 先生が言った。

「私は紙の束を持つ」

 ひよりが言った。

「俺はペンを守るぜ」

 朔が言った。


「ペンは守らなくていいって」

 ひよりが言った。

「いや、大事だぞ?」

 朔がふざけるように言った。


 少し笑い声が出た。

 悠斗の中の張り詰めていた緊張の糸が少しだけほどける。


 悠斗は端末を見る。

 残り時間は減っている。

 名簿の紙は増えた。

 滞在する教室も決まった。

 残る生徒たちの名簿もできた。


《暫定:残り 22:37》


 悠斗は紙束を持った。

 分厚くて、重い。

 夢じゃないと分かる。


「今夜は学校で寝る」

 朔が言った。

「寝られるかな?」

 悠斗が言った。

「寝るしかない」

 ひよりが言った。


 悠斗は頷いた。

 今夜の場所は決まった。

 後は今夜のルールを決めないと。

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