第19話 忍び寄る者
ひよりは余白の手順を指で押さえた。
鉛筆は転がらないように横に置かれていた。
三上は机の端に立ち、校門側を見ていた。
朔は通路の横で腕を伸ばし、人の流れを動かしていた。
早瀬が倉庫前に戻ってきた。
息を整えてから言う。
「篠宮さん、廊下の奥は止められています」
「線の前まで行く人は減りました」
「分かった」
「早瀬さん、そのまま廊下で声をかけて」
「はい」
早瀬はすぐに戻った。
朔が通路を見ながら言った。
「今は線の方に行かせない」
「外へ行くやつも絞る」
悠斗は頷いた。
言い終わる前に、校門側から電子音が鳴った。
ピッ。
校門の内側。
端末の画面は消えかけていた。
ひよりが先に立っていた。
三上も横に並んでいる。
「見て」
ひよりが短く言った。
悠斗は画面の下端を見た。
細い帯が一瞬だけ点いた。
《暫定:残り 07:××》
数字は薄れて消えた。
三上が息を吸った。
「履歴を開きます」
三角を押す。
表示が上から順に並んだ。
《更新到達時、監査者が介入します》
《介入条件:例外領域(拠点域)》
《介入対象:拠点域》
《実行:権限不足》
悠斗は指先を止めた。
同じ画面なのに、言い方が変わっていた。
「なんだこれ?」
「予告なのか...?」
ひよりが画面を見たまま言った。
「介入って書いてあるけど」
「何かが来るってこと?」
三上は行をもう一度上から追った。
「権限不足はまだ残っています」
悠斗は一度だけ息を吐いた。
「これはマズいな」
朔が端末の横から覗いた。
「監査者って何だよ?」
悠斗は首を振った。
「わからん」
「来た時にならないとどうにも」
ひよりが端末から目を離し、悠斗を見た。
「どうする?」
三上が小さく頷いた。
「次に出た文は、すぐに読みます」
「消える前に」
校舎の廊下。
二年二組の前の廊下は静かだった。
窓の光が床に伸びている。
階段の踊り場には白い線が残っていた。
線の前で一人が足を止めかけた。
朔がすぐに腕を伸ばした。
「そこまで」
「この先は危険だ」
生徒は踵を返し、廊下側へ戻った。
早瀬が角から声を飛ばす。
「ここから先は行かないで」
列は少しずつほどけた。
線は消えなかった。
倉庫前。
ひよりは紙を押さえ、余白に短い二行を書いた。
鳴ったら止まる。
下端を見てから→履歴を見る。
悠斗は紙を見た。
三上は校門側へ視線を戻した。
「鳴ったらすぐ行きます」
風が止んだように、倉庫前が一瞬だけ静かになった。
その静けさの中で、端末がまた鳴った。
ピッ。
三上が履歴の一番上を指で押さえた。
《更新到達時、監査者が介入します》
その下の行が、今までと違う順番で並び替わった。
《介入対象:拠点域》
《介入対象:確認者》
悠斗は指先を止めた。




