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第14話 増える手

 倉庫前。


 机の上には、受付の紙が一枚だけ置かれていた。


 ひよりは紙の上に鉛筆を走らせていた。

 受付の欄。

 先生を見た場所の欄。

 同じ紙の中で、書く場所を分けていた。


 校門側の隅では、朔が立ったまま人を見ていた。

 通路の真ん中は空いていた。

 立ち止まりそうな人が出るたびに、朔が声を出していた。


「止まるな」

「見るなら後だ」

「倉庫前に戻れ」


 言われた生徒は足を止めずに歩いた。


 早瀬は廊下の奥へ行っていた。

 各教室へ、外へ出る時の言葉を伝えに行っていた。


 悠斗は机の前に立って、紙を見た。

 外出。

 未確認外出。

 未帰還者。

 帰還。

 先生を見た場所。


 見出しは増えていた。


 その時。

 廊下の奥から二人分の足音が近づいてきた。


 先に来たのは、二年一組の男子だった。

 その後ろに、女子生徒がいた。


「篠宮さん!」

「外へ出たいって言ってる人がいます!」


 男子が言った。

 肩が上下していた。


 後ろの女子生徒は、机の紙を見ていた。

 話にはまだ入らない。

 紙の見出しを順に目で追っていた。


 ひよりが顔を上げた。


「本人はどこ?」


「教室の前です」

「今は廊下で待たせてます」


 悠斗が言った。

「ここに呼んで」

「一人で行動させないで」


「はい!」

 男子はすぐに戻った。


 残った女子生徒が、紙を見たまま口を開いた。


「……その紙」

「外へ出る人は書くんですよね?」


 ひよりがその子を見た。

「そうだよ」


 女子生徒は頷いた。

 指を出して、紙の下の欄を示した。


「さっきの先生の話なら、ここで」

「今の外出の話は、上だね」


 ひよりは一度だけその指先を見た。

 次に女子生徒の顔を見た。


「分かる?」


「見出しが分かりやすいから」

「見れば分かります」


 ひよりは短く聞いた。

「名前は?」


「三上です」

「二年四組です」


 ひよりは机の横を指した。


「そこに立って」

「次、人が来たら、書く場所を一緒に見てもらえる?」


「はい」

 三上は机の横に立った。

 紙から目を離さなかった。



 校門側の隅から、朔の声が聞こえてきた。


「出るなら二人で来い」

「一人で来るな」


 その後で、本人が来た。

 二年一組の男子だった。

 先程の伝言役と並んで歩いてきた。


 顔がこわばっていた。

 手は開いて閉じてを繰り返していた。


「行かせてください」

「家に電話しても、誰も出ないんです」


 ひよりは紙の上を指で一回叩いた。

 トン。


「ここに書くから」

「名前を言って」


「……たかはし」

「……たかはし、ゆうた」


 ひよりが鉛筆を持ち直して、そのまま書いた。


 ・区分=外出

 ・名前=たかはし ゆうた


 ひよりが聞いた。


「行き先は?」

「校門?それとも裏口?」


「校門です」


「戻る目安は?」

「何時ごろ戻る?」


「三十分くらいです」


 ・場所=校門

 ・時刻=__:__


 ひよりが言った。


「一人では行かないで」

「同行者を必ず一人つけてね」


 伝言役の男子がすぐに手を挙げた。

「俺が一緒に行きます」


 ひよりは続けて書いた。


 ・同行者=___


 悠斗が二人を見て言った。

「校門の前で止まらないで」

「貼り紙は触らないで」

「変だと思ったら、その場で戻って」


「はい」

 二人は並んで歩いていった。

 走ってはいなかった。



 倉庫端末が鳴った。

 ピ。


 白い表示が出た。


《同行者の記録を優先する》


 ひよりが画面を見た。

 三上も横から見た。


 ひよりは紙の同行者の行を鉛筆で一回なぞった。


「ここが先だね」

「一人で出さないためだ」


 三上が小さく頷いた。

「名前より先に、同行者が決まってるか見ます」


 ひよりは三上を見た。

「それでお願い」

「次から、そこを先に見てほしい」


「はい」

 三上は返事をしてから、紙の同行者の行を指で押さえた。

 次に書く場所を先に決めていた。



 廊下の奥から、また足音が聞こえてきた。

 今度は早瀬だった。


「篠宮さん」

「なにか手伝えることはありますか?」


「ありがとう、今のままで大丈夫。」

「何かあったら呼ぶから、休んでていいよ」

「もし、先生を見かけた時だけ教えてほしいかな」


「はい」


 早瀬は三上を見て、目を丸くした。


「手伝ってくれてるんですね」


 三上は紙から目を離さずに答えた。

「書く場所を見ています」

「今はそれだけですね」


 早瀬は一度頷いた。

 そのまま次の教室へ向かった。



 校門側の隅で、また一人が立ち止まりかけた。

 朔がすぐに手を出して、そのまま止めた。


「そこで止まるのは危ないから歩け」

「外へ出るならまず倉庫前だ」


 言われた生徒は肩をすくめて、倉庫前へ歩いた。


 悠斗はその様子を見てから、朔の方へ二歩だけ近づいた。


「お前、どうした?」


 朔が顔だけ向けた。

「何がだよ」


「最近、ずっと気を張ってる」

「ずっと真面目な話ばかりだ」


 朔は鼻で一回息を吐いた。

 通路を通った生徒を肩で避けさせてから、低い声で返した。


「笑わせる空気でもなかっただろ」


 そこで口の端が少し動いた。


「朝から外出希望が増えすぎなんだよ」

「こっちも叫んでて口が乾く」


 悠斗は小さく頷いた。

「お前らしいな」


 朔は肩を一回だけ揺らした。


「じゃあ、納得しとけ」


 その直後、また二人が校門の方を見た。

 朔はすぐに声を出した。


「勝手に外に行くな」

「まず倉庫前へ行け」


 二人は向きを変えた。



 倉庫前。


 三上は紙の上の欄を見ていた。

 ひよりは聞くことに集中していた。

 早瀬は連絡を伝えていた。

 朔は勝手に外に出る生徒を監視していた。


 悠斗は先生に代わり指示を出す側に回っていた。


 三人だけではなかった。

 手が一つ、二つ増えただけで、止まりかけていた流れが前へ進んでいた。


 しかし、忙しさにかまけて、ある事を確認するのを忘れていた。

 拠点の根幹をも揺るがす、ある事を。

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