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第13話 所在不明

 倉庫前。


 ひよりが鉛筆を動かしていた。

 早瀬は廊下の奥へ連絡を伝えに行っていた。

 朔は校門側の隅に立ったままだった。


 悠斗は受付の紙の空欄を見た。

 まだ空欄はあまり埋まっていない。

 でも、行き先を書いてから動く人は増えていた。


 その時。

 二年四組の方から女子生徒が来た。


「篠宮さん」

「橘先生を見かけなかったですか?」


 ひよりの手が止まった。

 鉛筆の先が紙の上で止まる。


「橘先生?」

「今日はまだ見ていないよ」


 女子生徒は唇を噛んだ。


「さっき、呼びに行ったんですが」

「職員室にもいなくて」

「保健室の方にもいませんでした」


 悠斗が顔を上げて言った。

「最後に見たのは?」


「朝です」

「倉庫前で紙を見ていました」


 ひよりは受付の紙の端を押さえた。

 目だけで悠斗を見る。


 悠斗は小さく頷いた。

「今は捜索しに行く人数を割けない」


 ひよりが言った。

「先生のことは、見た場所をメモするね」


ひよりは同じ紙の下に、短く見出しを書いた。


【先生を見た場所】

・先生の名前

・最後に見た場所

・最後に見た時刻

・見かけた人


 女子生徒が言った。

「二年四組の加藤です」

「最後に先生を見た場所は朝の倉庫前です」


 ひよりは書いた。

 加藤の名前も書いた。

 時刻欄には「朝」とだけ先に入れた。


 悠斗は言った。

「加藤さん」

「職員室には、もう一人で行かないで」

「見に行くなら二人で行くように」


 女子生徒は頷いた。

「分かりました」


 ひよりが顔を上げて言った。

「加藤さん」

「二年四組には、今まで通りで伝えて」


「はい」

 加藤は向きを変えて戻っていった。



 朔が校門側から戻ってきた。

「今の、先生の話か?」


 悠斗が答えた。

「橘先生が見つからない」


 朔は一度だけ受付の紙を見た。

 所在確認の欄。

 新しく増えた見出し。


「この方法しかないよな」

「もし先生探しで人が動いたら、混乱しちまう」


 ひよりが言った。

「今は校内を離れていない前提にしよう」

「まだ外に出た証拠がないから」


 悠斗の頭に言葉がよぎった。


 記録改変。


 でも、今は言わない。

 二人を不安にさせたくなかった。



 倉庫端末が鳴った。

 ピ。


 白い表示が出た。


《確認者不在時は代行記録を要する》


 ひよりが端末を見た。

 目線が紙へ向く。

 ひよりは鉛筆を持ち直した。


「来た」

「確認する人がいない時は、代わりの人を紙に残せって言ってる」


 朔が眉を動かした。

「先生がいないって出たのか?」


 ひよりは首を横に振った。

「そこまでは書いてないけど」

「ただ、『確認者不在』って言葉が出てる」


 悠斗が言った。

「今のうちに決めよう」

「先生を待たずに、何とかできる形に」


 ひよりは紙の空いている場所に、もう一行足した。


・代行記録者(確認者がその場にいない時)


 ひよりが悠斗を見た。


「外出と帰還は、今まで通り私が書くね」

「先生の所在確認と、代行を一人決めたい」


 朔がすぐに言った。

「俺は無理だ」

「ここを離れられない」


 悠斗は頷いた。

「朔はそのまま校門だな」

「ひよりも確認係で」

「早瀬さんは連絡係だし」


 その時。

 廊下の奥から早瀬が戻ってきた。


「篠宮さん」

「他のクラスにも伝え終わりました」


 ひよりが頷いた。


「ありがとう」

「もう一つお願いしていいかな?」

「もし橘先生を見かけたら、ここへ来るように言ってもらえないかな?」


 早瀬は目を丸くした。


「橘先生ですか?」


「うん」

「無理に先生を探しに行かなくていいから」


 早瀬は息を整えてから頷いた。


「分かりました」

「見かけたら伝えておきますね」



 二年三組の方から、今度は男子生徒が来た。

 何度も後ろを見ていた。


「篠宮さん」

「佐伯先生は、二年三組にいました」

「でも、橘先生は見てません」


 ひよりが先生を見た場所に足した。


・佐伯先生=二年三組に在室

・橘先生=未確認


 悠斗はその行を見た。

 佐伯先生はいる。

 橘先生だけがいない。


 ひよりが言った。

「佐伯先生に、勝手に動かないように伝えたほうがいいかな?」


 悠斗は受付の紙を見た。

 外出。

 未確認外出。

 未帰還者。

 帰還。

 所在確認。

 見出しは増えた。


「佐伯先生に伝えよう」

「『今は教室を離れないでください』って」



 ひよりは頷いて言った。

「早瀬さん、二年三組に行って」

「『佐伯先生は、教室を離れないでください』って伝えてほしい」


「はい」


 早瀬はすぐに向きを変えた。

 足音が廊下の奥へ消えた。



 朔は校門側へ戻った。

 邪魔にならないように隅に立ち、通路の真ん中を空けていた。


 ひよりは所在確認の欄を見直した。

 書き漏れがないか、指で上から順に追った。


 悠斗は倉庫端末を見た。

 先程までの白い表示は消えていた。


 物事を決めていた橘先生が不在になり

 先生が前に出て決める形ではなくなり始めていた。


 佐伯先生に連絡を伝えに行った早瀬の声が

 廊下の奥で大きく響いた。

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