第11話 外出の受付
校門の内側。
高瀬は地面に座ったまま、肩で息をしていた。
ひよりがしゃがんで、水の入ったペットボトルを差し出した。
「ゆっくりでいいよ」
「飲める?」
高瀬は小さく頷いて、少しだけ口をつけた。
「……すみません」
「勝手に出ました」
悠斗は高瀬の顔を見た。申し訳なさそうな表情と共に、戻れた安心感も混ざっていた。
でも、まだ終わっていない。
「謝るのはあとでいい」
「今は同じ失敗を繰り返さない手順を作るのが先」
ひよりが頷いた。
「高瀬くんは保健室の前まで移して休ませよう」
「誰か一人、付き添ってあげて」
「早瀬さんは連絡をお願い」
「私は倉庫前で受付を続ける」
朔が校門の前に立ったまま言った。
「見物人は散らした」
「でも、校門はすぐ人が寄る」
「未帰還者が戻ったと聞いたら、余計に来るかもな」
悠斗は短く息を吐いた。
「校門には近づかせない」
「来たら朔が止めてほしい」
「分かった」
朔の返事は短かった。
倉庫前。
机の上に紙が並んでいた。名簿、訂正の記録欄、確認の手順。
ひよりは紙の角を揃えた。
ひよりは同じ紙の中に、線を引いて区切りを作った。
【受付(共通)】
・区分=外出/未確認外出/未帰還者/帰還
・名前(読み)
・場所(教室/校門/裏口)
・時刻(何時何分)
・記録者(確認係)
・同席者(見届けた人)
ひよりは悠斗を見て言った。
「外へ出ると言った人は、ここで名前と行き先と時刻を書く」
「戻っていない人が出たら、読みと最後にいた場所を書いて印をつける」
「貼り紙が出たら、区分だけ『未帰還者』に変える」
「帰還は、校門端末の登録と同じ時刻をここに残す」
廊下の奥から足音が近づいた。早瀬が戻ってきた。息は上がっていた。
「篠宮さん」
「今、二年二組に伝えてきました」
「用事がない限り校門には来ないこと。」
「勝手に外へ出ないこと。困ったら倉庫前へ来ること」
ひよりが頷いた。
「ありがとう」
「今後は外へ出る前に、必ずここへ一度来てもらう」
「他の教室にもきちんと伝えてほしい」
「紙は持って行かなくていいよ」
ひよりは指で二つだけ示した。
「『外へ出るなら、先に倉庫前で名前を言うこと』」
「『その際に戻る予定も伝えること』」
「この二つだけでいい」
早瀬は頷いた。指先の震えが少しだけ収まった。
「分かりました」
「その二つだけ、各教室に伝えてきます」
ひよりは続けた。
「貼り紙の文を覚えている人がいたら、ここで聞くから」
「言ってくれたら、こっちで紙に書くね」
「はい……!」
悠斗は廊下の先を見た。閉じた扉はまだ多かった。今日の午前中は確認の時間だ。でも今は、確認だけでは足りない。
外へ出る人を、先に受付へ流す形。それを作った。
ひよりが紙に短く書き足した。
・校門 高瀬 帰還 時刻__:__ 記録者=篠宮 同席者=相羽
悠斗は名簿の余白にも書いた。ここには名前はひらがなで書く。
たかせ はやと
帰還 校門端末 受理
記録 受付一枚
朔の声が廊下に響いた。
「あまり集団で集まるな」
「通路は空けろ」
「校門の方へは勝手に行くな」
廊下のざわつきが、少しだけ静かになった。
悠斗は今後の問題を考えながら、ペンを握り直した。




