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探査船アステリオン

作者: 古数母守

 探査船アステリオンが地球を出発してから、もう何年も経っていた。宇宙望遠鏡による長年の観測データから地球と同程度の重力を持ち、ハビタブルゾーンに存在する惑星がいくつかピックアップされていた。それを順番に調査するのが彼らの任務だった。

 最初に訪れた惑星は全体が海に覆われていた。海水の成分を分析して問題ないことを確認してからアステリオンは着水した。そして海水を採取し、詳細に分析した。すぐに原初的な生命が存在していることが確認された。地球外で初めて生命が発見されたことに一同は歓喜したが、地球で帰りを待つ人々が彼らに寄せている期待を満足させるには、少し物足りないかもしれなかった。その後、ソナーを使い、もっと大型の生命が潜んでいないか丁寧に探査を続けたが、魚はおろか、クラゲすら見つからなかった。

 続けて三つの惑星を調査したが、いずれの惑星も赤茶けた大地が広がっているだけだった。かつて火星を訪れたバイキングのように有機物のスープを晒してみたが空振りに終わった。単純な生命ですら稀にしか発生しないという現実を突きつけられた感じだった。

「地球の人々は知的生命との遭遇を期待しているのだろうな」

船長がぽつりと呟いた。船員たちも残念に思っていた。だが、自分たちの力でなんとかなる問題でもなかった。

「次の惑星にまもなく到達します」

航海士が言った。船員たちはスクリーンに映し出される惑星の姿が次第に大きくなるのをじっと眺めていた。

「海と大気があります。それから陸もあるようです」

映像を分析していた船員が言った。今まで訪れた惑星の中で、最も地球に似た惑星のようだった。

「大気の成分は酸素が20%で窒素が80%です。地球とほぼ同じです」

船員たちの期待は次第に膨らんでいった。

「建物が見えます。巨大な都市のようです。ソーラーパネルのような構造物も確認できます」

船内はかつてない程の緊張と喜びに包まれた。遂に知的生命体の存在する惑星を見つけたと一同は思った。同時に極めて慎重に行動を進めなければならないと考えていた。異なる文明が出会った場合に、その結果が不幸に終わる可能性は十分に高かった。そんな事態を引き起こすことのないように細心の注意を払わなくてはならなかった。

「何かメッセージのようなものは確認できたか?」

船長が通信士に尋ねた。こちらの存在を向こうが確認できないはずはなかった。威嚇か、あるいは友好か、そこに何らかの姿勢があっても良いと船長は考えていた。だが、惑星は宇宙船の来訪をまったく気にも留めていないようだった。

「何も反応がありません。どうしますか?」

通信士は言った。しばらく考えてから船長は地上に着陸することにした。不法侵入になる可能性はあった。だが、こちらに敵意がないことを示せば道は開けるだろう。それに我々はこのためにやって来たのだ。そう考えていた。


 地上に降り立った彼らは、そこに人の気配がまったく感じられないことに戸惑っていた。明らかに人工的な構造物がそこにあるのに住民は一人も見当たらなかった。目の前を自動車のような物体が通り過ぎるのを彼らは見た。だが誰も乗ってはいなかった。というより、運転席のようなものがなかった。自動車自体が目的を持って動いているようだった。それからしばらくの間、彼らは地上にある建物を調べた。それは工場のようだった。何か半導体チップのようなものを製造しているようだった。誰かが作っているのではなく、工場自体がチップを製造しているようだった。そこには自動化された搬送システムがあり、ガスも純水も配管を介して供給されているようだった。配管が血管のように張り巡らされていた。それ自体が生きているようだった。そして電力を供給していると推測されるたくさんのソーラーパネルが辺りに広がっていた。

「いったい、どういうことなのでしょうか?」

船員たちは訳が分からず、その様子を見ているだけだった。

「システムそのものが生きているのかもしれない」

船長は言った。きっとこのシステムを生み出した知的生命体がかつて存在したに違いない。それがどういう訳かいなくなってしまった。もしかしたらシステムに滅ぼされてしまったのかもしれない。知的生命体がAIを生み出して、AIが進歩を続けているといつか生みの親を超えてしまう。ここで何があったのか私たちにはわからない。ただこの星には友好を結ぶべき兄弟はいないようだった。

「急いでこの星を離れよう」

船長は言った。


 アステリオンは地球を目指していた。知的生命体と遭遇することはできなかったが、何かしら教訓は得られたかもしれない。そう思いたかったが、船員たちは皆、失意の底にあった。テクノロジーの進化の先には、人間にとって決して幸福ではない将来があるのだということを目の当たりにしてしまった。そうなるかもしれないということではなくて、すでにそうなってしまった世界がある。そのことが彼らをひどく苛んでいた。

「地球が見えます」

航海士が言った。その言葉に船員たちは顔を上げた。やっと戻って来た。そんな感じだった。故郷とは良いものだ。帰る場所があるのは良いことだ。そんな気持ちが彼らを明るくさせていた。

「何か変です」

通信士が言った。彼は管制センターと連絡を取ろうとしていたが、応答はなかった。それどころか地球は沈黙していた。電波が飛び交っていてもおかしくなかったが、すっかり沈黙していた。そして彼らは拡大した映像を見て驚いた。そこには、あの星で見た巨大な都市のような構造物が映っていた。ソーラーパネルが広がり、配管がつながった構造物が地上に広がっていた。

「遅かった・・・」

すっかり人影の消えてしまった地球を見つめながら、船長がぽつりと呟いた。

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