再会の影
Avelinです。
第8話では、パーティーの裏で耳にした
“京司”という名前がサラの心に残りました。
今回は、その名前と繋がりのある人物との偶然の再会が、物語に新たな影を落とします。
朝の光が、カーテンの隙間から差し込む。
昨夜のパーティーの余韻がまだ体の奥に残っていた。
リビングに向かうと、玲司は電話をしていた。
低く冷たい声――聞き慣れない口調。
「……いや、俺は関わらない」
受話器を置いた瞬間、表情が柔らかく戻る。
「起きたのか。朝食、用意してある」
何も聞かなかったふりをして、テーブルにつく。
けれど胸の奥のざわめきは消えなかった。
その日、私は友人の誘いでカフェへ出かけた。
席に着くと、ふいに視線を感じる。
ドアの向こう、スーツ姿の男が立っていた。
仕立ての良いスーツが光を反射し、足音は硬い革靴の音を響かせる。
微かに香るのは、甘さの奥に苦みを潜ませた香水――
距離を測るような鋭い眼差しが、私を捕らえて離さない。
鋭い目、薄い笑み。どこかで見たような――
「……サラさん、ですよね」
近づいてきた男は、低く名を告げた。
「京司と……どういう関係ですか?」
息が詰まる。
「京司……?」
「すっとぼけるのは得意なんですね」
背筋を冷たいものが走った。
彼はテーブルに名刺を置き、去っていった。
その名刺には、見覚えのあるロゴ――玲司の会社のものが刻まれていた。
夜、玲司に問いかけようとすると、彼は私の手首を取った。
「……あいつに、何か言われたか」
「京司って……」
「その名前を、俺の前で口にするな」
瞳の奥に、怒りと悲しみが混ざる。
「俺が言えるときが来るまで……信じて待て」
甘く抱き寄せられながらも、胸の奥の不安は、さらに深く沈んでいった。
お読みいただきありがとうございます。
第9話「再会の影」では、“京司”という名前がさらに色濃く物語に現れました。
次回ーー
玲司の周囲に渦巻く影が、サラの安全を脅かす出来事へとつながる。
そして――
誰も知らない玲司の過去が、サラの目の前に現れる。
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