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月下香の約束 ―幼き日の声―

39話では、サラの記憶がさらに鮮明になり、

姉の最期と玲司の仕組んだ冷酷な筋書きが交錯しました。


そして今回――。

サラと京司、二人の想いがようやく重なります。


幼い日の記憶が鮮明に蘇り、

溺愛の告白、そして永遠の誓いへ。


ですがその裏で、狂気の影が静かに迫っていたのです。


「いやぁぁっ!」

サラの悲鳴が、夜の静けさを切り裂いた。


扉の外に立ち尽くしていた京司の胸が、激しく抉られる。

拳を握りしめ、唇を噛み、ただ耐える。


(今は……俺が踏み込むべきじゃない……)


そう自分に言い聞かせても、心臓は早鐘を打ち続ける。

愛する人が苦しんでいるのに、手を伸ばせない――

その無力さが、胸を裂くほどの痛みに変わっていく。


「サラ……!」


次の瞬間、抑えきれなかった。

京司は扉を押し開け、駆け寄っていた。



ベッドの上で、震えるサラ。

その頬には涙が伝い、怯えきった瞳が空を彷徨っている。


京司は思わず手を伸ばした。

けれど――その指先は途中で止まる。

触れてしまえば、彼女をもっと壊してしまう気がして。


(……それでも、俺は……)




震える声で、サラが囁いた。



「……ねぇ、京司さん」


サラの声は震え、喉の奥でかすれる。

潤んだ瞳で彼を見つめながら、恐る恐る言葉を紡いだ。



「……あの温室で……月下香の花をくれた少年……あれは……あなた、だったの……?」



京司の胸の奥で、封じてきた記憶が疼いた。

――幼い日の声。



「サラ……大きくなったら……結婚しよう」



あの日、月下香の白に包まれた温室で、震える心を隠しながら口にした言葉。


姉が京司を想っていたことを知っていたからこそ、二度と口にすることのないはずだった秘密。


けれど――サラの瞳が、確かにその記憶を映していた。


(……覚えていてくれたのか)


胸の奥が焼けつくように熱くなり、視界が滲む。

押し殺してきた想いが、(せき)を切ったように溢れ出す。


京司の瞳に、揺るぎない答えが宿っていた。


――あの日から何ひとつ変わらない。

いや、時を経てなお、強く、深くなった。


彼女を想う気持ちは、決して消えることのない愛そのものだった。



京司の瞳に、熱を帯びた光が宿る。

言葉を選ぶように、一瞬だけ沈黙が落ちた。


「……サラ。あの日から、俺はずっと――お前だけを想ってきた」


抑えていた感情が溢れ出すように、京司は言葉を紡ぐ。


「誰にも渡したくない。守りたい。笑わせたい。泣かせたくない」


その声に、サラの胸が震えた。

涙で滲む視界の中、彼の姿が大きく見える。


「京司さん……」


幼い頃から心のどこかで惹かれていた。

姉に遠慮して、胸の奥に閉じ込めてきた想い。

それが今、堰を切ったように溢れ出す。


「私も……ずっと、大好きでした」


震える声で吐き出した瞬間、京司の瞳が大きく揺れた。

次の瞬間、彼は強く抱きしめる。


「サラ……愛してる」


熱い吐息が耳をかすめ、心臓が痛いほど跳ねる。


「サラ……俺と――結婚してくれるか?」


耳に届いた瞬間、世界が止まったように感じた。

けれどサラは、ためらいがちに俯き、震える声で言った。


「……でも……私、一度……結婚したんです」


その言葉に、京司の瞳が鋭く光る。

だが次に告げられた言葉は、サラの心を揺さぶった。


「違う。君は結婚していない。誰とも」


「え……?」


「結婚式は挙げた。だが戸籍はそのままだった」

「……つまり、式だけだったんだ」


サラの目が大きく見開かれる。

信じられない言葉に、心臓が一気に熱を帯びた。


「だから……君は、初めての結婚だ」


京司の声は揺るぎなく、甘く強い。


「この先、一緒に歩んでくれるのは――俺だ」


サラの頬を伝う涙を、京司の指先がそっと拭う。

その指先の温もりに、サラは胸の奥から答えを見つけていた。


「……はい……京司さん」


震える声で告げた瞬間、京司はサラを抱きしめ、唇を重ねた。


溢れ出す想いは、止めることなどできなかった。

甘く、深く、誰にも壊せない愛の証。


――それが、二人の「始まり」だった。




……だが。


遠く離れた場所。

鉄格子のような影が落ちる、冷たい部屋。


檻の中に囚われた獣のように、ひとりの男が佇んでいた。

鋭い瞳が闇を切り裂き、唇から低い声が漏れる。


「……サラ」


その響きは甘く、そして凍りつくほど冷たい。


「絶対に……誰にも渡さない」


声は壁を震わせ、檻の向こうにまで染み渡る。



「どこへ逃げても追いかける……

どんなに拒んでも、俺からは逃げられない」


狂気を孕んだ囁きが、静かな夜に溶けていく。


それは――愛ではなく、執着。

救いではなく、檻。



彼の瞳はただ一つを映していた。


―― 俺のものだ……サラ。永遠に。



第40話を最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。


ここまで支えてくださった読者様のおかげで、

物語を無事にここまで紡ぐことができました。


甘く切ない愛、そして狂気の執着――

最後まで見届けてくださることに、心から感謝しています。


どうか、この先もお付き合いいただければ嬉しいです。


いつも本当にありがとうございます。


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