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月下香の夜 ― 崩れる信頼

揺れる信頼と、香りに隠された真実。


第31話では、玲司の言葉と悠真のメッセージが

サラの心を大きく揺さぶりました。


そして今回。

“月下香”の甘い香りが、眠っていた記憶を

呼び覚ますきっかけとなります。


けれど同時に――その香りは、

玲司の本質をさらけ出すものでした。


危うさと恐怖の狭間で、サラはついに決意します。


「この檻を出なきゃ」と。



(玲司さん……やっぱり、何か隠している?)


不信感が心に深く突き刺さる。



夜。

私は、ついに決意した。


同じ寝室にいることは、もうできない。

玲司さんへの不信感が、胸を締めつけて眠れなくさせるから。



別の部屋に移り、深呼吸をした。

そして――静かに“月下香”の香を焚いた。



白い花を模した香炉から、甘く濃厚な香りが広がっていく。

その瞬間、懐かしい記憶が胸を満たした。


(……お姉ちゃんと一緒に温室で笑っていた時の……あの香り)



陽だまりの庭、白い花に顔を寄せる姉。

そして、その隣で花を差し出してくれた少年。



「――サラ。……ほら」



星のように白く輝く月下香を、

誇らしげに見せてくれたあの笑顔。



胸が痛いほどに蘇る。


(……あの少年は……京司さん……?)



そう思った瞬間――。

廊下から足音が近づき、扉が静かに開いた。



「……この香りは……」



玲司だった。



部屋に一歩入った途端、その瞳が異様に光を帯びる。


部屋に漂う香りに酔ったように、玲司の呼吸は荒くなっていった。


まるで冷徹な男が、別人に変わっていくように。



「……サラ……」



低い声が震え、次の瞬間には私の腕を掴んでいた。


熱を帯びた手のひらが、異様に強い。



「やっと……見つけた」



耳元に囁かれたその言葉。



――それは、初めて私に向けられた彼の言葉と同じだった。


(……でも……これは……愛じゃない)


首筋に顔を埋め、抑えきれない熱をぶつけてくる玲司。


甘い香りに溶けた声で、名前を繰り返す。



「……サラ……俺のものだ」



怖い。



これは、私ではない“誰か”に向けられた感情。

そう直感した。



「いや……やめて!」



恐怖に耐えきれず、思わず悲鳴を上げた。



ドン――!



廊下から駆け寄る足音。


ボディガードたちが一斉に扉を開いた。



「誰も入るな!!」



怒鳴る玲司。

だが私は、怯えた表情のまま動けなかった。




そのとき――。


「サラさん!」



駆け寄ってきた蓮が、私を強く抱きとめるように庇った。


その腕の温もりに、張りつめていた心が一瞬だけ緩む。



(……安心する……でも、どうして……蓮さんはここまで……?)



彼の真剣な眼差しに胸がざわめく。

まるで、ただのボディガード以上の覚悟を秘めているように見えた。



「大丈夫です、俺が……」



小声でそう言うと、蓮は素早くポケットからスマホを取り出し、壁際に身を寄せて誰かに連絡を入れた。



「……承知しました。すぐに迎えを」


その声の主は、京司の秘書だった。



けれど私は、その事実をまだ知らない。

ただ――蓮の眼差しが、静かに「大丈夫だ」と語りかけてくるように見えた。



胸の奥に説明できないざわめきが広がっていった。



玲司は苛立ちに顔を歪め、ボディガードに怒鳴り散らす。

けれど私の視線は、蓮の横顔に縋っていた。



(……玲司さん……やっぱり……何かがおかしい)


まだ部屋に漂う、月下香の甘く強い香り。





その香りに怯えながら、私は心の奥で決意した。



――この檻を、出なきゃ。



必ず。

第32話では、サラが“月下香”をきっかけに

玲司の歪んだ愛を目の当たりにしました。


恐怖と疑念の中で、蓮が見せた存在感は

彼女にとって一筋の救いであり、同時に謎を深めるものでした。


そして、檻を抜け出すという決意は

これからの物語を大きく動かしていきます。


これまでブックマークや評価をくださった皆さま、

本当にありがとうございます。


一つ一つが、この物語を紡ぐ大きな力になっています。



次回、第33話――

サラの前に差し伸べられる“救いの手”が、

新たな局面を切り開きます。


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