揺れる信頼 ―歪められた記憶―
第30話では、ついに京司と玲司の兄弟関係が明かされました。
サラの胸に残るのは、京司の微笑みと玲司の冷酷な眼差し――。
その狭間で揺れるサラは、再び玲司へ問いかけます。
かつて彼が語った「妹の話」。
しかし、その言葉はどこか歪みを帯びていて……。
そして、夜。
サラの手元に届く一通のメッセージ。
そこには、新たな謎と真実への鍵が添えられていました。
「久しぶりだな、兄さん」
京司が玲司を「兄さん」と呼んだ瞬間。
胸の奥で何かが音を立てて崩れた。
もしそれが真実なら――玲司は、なぜ私に何も言わなかったの?
眠れぬ夜を過ごした私は、朝になっても胸のざわめきを抑えられず、ついに口を開いた。
「……京司さんと……兄弟なの?」
声は震えていた。
玲司は一瞬だけ表情を固くしたが、すぐに冷たい静けさを取り戻す。
「……ああ。だが、あいつは俺とは違う」
その声は低く重く、逃げ場を与えない。
「サラ。お前は俺を信じていればいい」
(……信じろって……どうしてそんなに……)
疑念が胸を締めつける。
勇気を振り絞り、私はもう一歩踏み込んだ。
「玲司さん……前に言っていましたよね。
妹が人質にされて……京司さんに逆らえなかったって」
ピクリと、玲司の瞳が細められた。
鋭い沈黙ののち、作り物のような穏やかさが戻ってくる。
「……ああ。忘れもしない。俺は妹を守るために、
どれだけの屈辱を飲み込んだか……」
(……でも……前に聞いた時と……少し違う)
言葉の端々が微妙に歪んでいる。
まるで自分の都合のいいように、記憶を塗り替えているみたいに。
「サラ……俺は……」
玲司は何かを言いかけて、話すのをやめた。
けれど、私の胸の奥では別の光が鮮明に蘇っていた。
――京司の微笑み。
「サラ。……君は檻の中にいるべきじゃない」
そして――。
京司の白シャツの胸元、少し開いた隙間から見えたもの。
“闇夜に浮かぶ太陽“のアクセサリー。
(私は……何か大切なことを……忘れている気がする)
玲司と、京司の眼差し。
その違いはあまりにも大きい。
(玲司さん……やっぱり、何かがおかしい)
不信感が心に深く突き刺さり、抜けない棘となる。
その夜。
スマホが震え、新しい通知が届いた。
――「本当に玲司は君を守れるのかな?」
画面に浮かぶ文字に、息が止まる。
――「真実は、彼の言葉にはない。君の記憶の中にある」
(……真実は……私の記憶の中に……?)
胸の奥が大きく波立ち、視界が揺らぐ。
ふと、メッセージの最後に添えられた一枚の写真が目に入った。
――夜に咲く星のような白い花。
その名は――月下香。
(……この花……どこかで……)
悠真のメッセージは、
闇の奥から囁く声のように私を揺さぶる。
そして月下香の白い光が、眠っていた記憶の扉を叩き始めていた。
第31話では、玲司の言葉に潜む“違和感”と、京司の記憶が交錯しました。
サラの心に芽生えた不信感は、もう消すことはできません。
さらに悠真のメッセージが投げかけた問い――
「本当に玲司は君を守れるのかな?」
その言葉と共に映し出された“月下香”。
それは新たな記憶を呼び覚ます“きっかけ”となっていきます。
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次回、第32話――
サラの記憶の扉が、さらに深く開き始めます。




