衝突する影 ―御曹司たちの真実―
第29話では、サラの記憶に“幼い日の少年”が甦り、京司の微笑みと重なっていきました。
しかし同時に、玲司の独占はますます強まり、悠真と蒼真の影が不穏に揺らぎます。
そして今回の第30話。
ついに、御曹司たちの影が正面から衝突します。
サラの記憶を呼び覚ます“真実の鍵”が、
姿を現し始めるのです。
――幼い頃に確かに出会った“記憶の少年”。
あれは、本当に……京司なの?
枕元に横たわりながら、瞼の裏に焼き付いて離れない光景がある。
「――サラ。……ほら見て」
小さな掌の中に揺れていたのは、姉が贈ったアクセサリー。
“闇夜に浮かぶ太陽”と名付けられた、不思議なモチーフ。
その少年は嬉しそうに微笑みながら、光を受けて輝く“太陽”を私に見せてくれた。
その笑顔は、確かに――京司の面影と重なっている。
胸の奥に疼くような温かさと、同時に押し寄せる恐怖。
昨夜見た玲司の冷酷な瞳が、その記憶を塗りつぶすように蘇り、眠りは遠のいていった。
朝――。
目を覚ますと、枕元がほんのり濡れていた。
(……泣いてた……?)
夜の夢の中で、欠けていた記憶の断片が鮮やかに揺り戻されていた。
姉の笑顔、そしてあの少年の微笑み。
忘れていたはずの光景が胸を締めつけるように溢れ出し――
眠っている間、知らず知らずのうちに涙を流していたのだ。
夜が明けても、心の重さは消えないまま、静かに私の胸に残っていた。
豪奢な食卓に並ぶ料理の香りさえ、今の私には何の味も感じさせなかった。
玲司はまるで何事もなかったかのように、穏やかに振る舞っている。
けれど、その瞳の奥は冷たく鋭く、私の心を逃さない。
「……サラ。怖い夢でも見たのか?」
ナイフとフォークを静かに置き、低い声でそう問いかけてきた。
「昨日……うなされていたから……」
その言葉に、胸が強く締めつけられる。
否定も肯定もできず――私はただ視線を伏せるしかなかった。
その瞬間、チャイムの音が鋭く響いた。
重苦しい空気を裂くように鳴り響いた音に、心臓が跳ね上がる。
モニターに映ったのは――京司だった。
玲司と同じ顔。けれど、その瞳には確かな優しさが宿っていた。
その姿を見た瞬間、胸の奥が大きく揺れ動く。
「……京司……さん」
思わず名前を口にした私の声に、玲司の視線が鋭く突き刺さる。
次の瞬間。
扉が開き、京司が静かに現れた。
「久しぶりだな、兄さん」
その一言に、空気が一瞬止まった。
心臓の鼓動が耳の奥で強く響く。
(……兄さん……?)
その呼びかけは、二人の関係を決定づけるもののように、重く胸に刻まれる。
「……ここはお前の来る場所じゃない」
玲司の声は氷の刃のように冷たく響いた。
しかし京司は一歩も引かない。
柔らかな微笑みを浮かべながら、私の前に立つ。
「彼女を檻に閉じ込めても、心までは縛れない」
二人の視線がぶつかり合い、空気が張り詰めていく。
私は息を呑み、動けなかった。
――そのとき。
横に控えていた蒼真が、わずかに身を引き、ポケットに手を伸ばす。
携帯を取り出そうとする仕草――悠真に連絡を取ろうとしているのだと、直感した。
「…………やめておけ」
京司の低い声が、その動きを制した。
玲司には届かないほどの小さな声。
けれど蒼真の耳には、確かに届いていた。
一瞬、蒼真の表情が揺れる。
その瞳には驚きと、押し殺された警戒心が浮かんでいた。
(……京司は……どこまで真実を知っている……?)
無言で携帯を握りしめた蒼真の視線は、兄弟の間に漂う緊張よりも鋭く、私の心を締めつけた。
胸の奥で、説明できないざわめきが広がっていく。
玲司は私の腕を強く引き寄せ、耳元で囁いた。
「忘れるな。お前は俺のものだ」
その冷たい独占の言葉に、胸が締めつけられる。
けれど視線の先では、京司が静かに告げていた。
「サラ。……君は檻の中にいるべきじゃない」
玲司と京司、二人の影が正面からぶつかり合う。
そして――。
京司の白シャツの胸元、少し開いた隙間から見えたもの。
“闇夜に浮かぶ太陽“のアクセサリー。
(……やはり……あの時の少年は京司さんだったのね)
第30話では、玲司と京司の兄弟としての関係が明かされ、
サラの記憶とアクセサリーが大きな意味を持ち始めました。
また、蒼真と悠真の動きが新たな疑念を呼び込み、
物語は大きく揺れ動いていきます。
――真実を知る準備はできていますか?
これまでブックマークや評価をくださった皆さま、
本当にありがとうございます。
その一つ一つが、物語を紡ぐ大きな力になっています。
次回、第31話――
さらに深まる記憶の謎と、御曹司たちの対立が決定的な局面を迎えます。




