拾われた夜、甘く危険な始まり
Avelinアヴェリンです。
裏切りの雨の夜、差し伸べられた赤い傘――。
その傘の持ち主の腕の中で、私の運命は静かに狂い始めた。
びしょ濡れのまま拾われた先に待っていたのは、甘くて危険な溺愛。
胸の奥まで染み込む夜の始まりを、どうぞ。
「……動けないでしょ」
その低く甘い声の直後、ふわりと体が浮いた。
「きゃっ……!」
気がつけば、お姫様抱っこのまま彼の胸の中。
スーツ越しの体温と、ほのかな香りが鼻先をくすぐる。
「ヒールも折れてるし、このままじゃ風邪ひくよ……俺の子猫ちゃん」
耳元で響く声が、心臓を叩く。
車のドアが閉まる音が、妙に静かに響く。
窓を伝う雨粒が、街の光を揺らしながら流れ落ちていく。
着いた先は、ガラス張りの高層マンション。
夜景の光が足元まで染めるエントランスに、一瞬言葉を失う。
「ここが、僕の家。……安心して」
豪奢なシャンデリアが、まるで舞踏会の入り口みたいに輝いていた。
部屋に入ると、彼はクローゼットから白いワイシャツを差し出す。
「これ、大きいけど……着ないよりいいでしょ」
「……ありがとうございます」
指先が触れた瞬間、胸の奥が熱くなる。
シャワーで温まったあと、ワイシャツを羽織る。
お尻まで隠れる丈、素肌に触れる柔らかな布。
「……ワンピースみたい」
小さくつぶやき、くるりと回ってみた。
リビングに出ると、ホットココアの甘い香りが広がる。
「……わぁ、あったかい」
「美味しい?」
「……はい」
湯気越しに目が合った瞬間、視線が深く胸を射抜く。
その奥に、言葉にできない何かが揺れている。
「……無防備すぎるね、子猫ちゃん」
大きな手が、ぽんと頭を撫でた──と思った瞬間、首筋をなぞるように滑り落ちた。
指先は軽く触れるだけなのに、逃げ場のない感覚が背中を這う。
「えっと……私、紗良っていいます」
「サラ……」
その名を噛みしめるように繰り返し、口元に笑みを浮かべる。
「やっぱり……可愛い。子猫のサラ」
「こ、子猫は……」
「うん、やっぱり俺が飼い主になる」
(……飼い主?)
「……いいんですか? ここに、いて」
「もちろん。拾ったのは……俺だから」
その声は甘い。けれど、目が笑っていない。
頬に触れた指先が、ゆっくりと顎を持ち上げる。
「もう、どこにも行かせないよ」
──この夜、私は彼に拾われた。
銀色の髪の御曹司に。
もう二度と、寂しい場所には戻れない。
そしてこの夜から──私は甘く冷たい檻に閉じ込められる。
お読みいただきありがとうございます。
「拾われた夜、甘く危険な始まり」
玲司の家で始まる、濡れた心を温めるひととき。
でもその手は、ただ優しいだけじゃない――。
優しさと支配は、紙一重。
次回、彼の独占欲が、私の世界をさらに狭くする。
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