暴かれた足跡
Avelinアヴェリンです。
第10話では、玲司が不在の間に
サラのもとへ“不穏な予告”が届きました。
今回、玲司が出社した日、サラは偶然“京司”に繋がる情報を耳にします。
けれど、その名は彼の職場でも“禁句”として扱われていて――。
翌朝――
玲司は何も言わず、早くに出社した。
残されたのは、静まり返った広い部屋と、昨夜の声の残響だけ。
(……あの電話、本当に夢じゃなかった)
あの低く抑えた声――
どこかで、似た声を聞いたことがある気がする。
(……あれは、一体……誰?)
胸の奥にざわめきを抱えたまま、身支度を整える。
昼前、忘れ物を届けるため玲司の会社へ向かった。
受付で名前を告げると、女性がわずかに戸惑った表情を浮かべる。
「……あの、こちらでお待ちください」
頷き、席に腰を下ろそうとした瞬間――
隣のロビーから、押し殺した声が耳に飛び込んできた。
「京司の件……どうなった?」
(えっ……京司……?)
「やめろ、その名前……聞かれたら面倒だ」
(どうして……ここで、その名前が……)
背筋を冷たいものが走る。
あの夜、玲司が低く告げた言葉――「その名を、俺の前で口にするな」。
確かに、その名は……京司だった。
やはり、何かがある。
そう確信したときには、ふたりの社員は険しい顔で廊下の奥へ去っていた。
その表情には、恐れと警戒がはっきりと滲んでいる。
(……過去に触れるな、か)
愛すれば愛するほど、知りたい――彼のすべてを。
ほどなくして玲司が現れ、私を見て柔らかく微笑む。
「わざわざ……ありがとう」
書類を手渡そうとした、その瞬間――
背後から、鋭く突き刺さるような視線を感じた。
ガラス越しに立っていたのは、昨日カフェで名刺を置いて去ったあの男。
その姿を見た瞬間、胸の奥で何かが軋む。
――あの目の奥に宿る鋭さ、どこかで感じたことがある。
記憶の底から、低く冷たい声がふいに蘇る。
(……まさか、同じ……? いや……)
男の唇がゆっくりと動き、“また会いましょう”と形を作る。
挑発のような笑みが、ガラス越しに浮かんでいた。
胸の鼓動が速まり、言葉にならない疑念が静かに心を締めつける。
(玲司の世界は……安全なんかじゃない。
それに――あの人は……いったい誰……?)
もしかして、答えを知っているのは……玲司だけ――?
お読みいただきありがとうございます。
第11話「暴かれた足跡」では、サラが
玲司の会社内で“京司”という名前が
タブー扱いされていることを知りました。
そして、カフェで遭遇した謎の男が再び姿を見せ、緊張感は一気に高まります。
次回――
玲司が口を閉ざし続ける“沈黙の理由”が、少しだけ明らかになります。
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