惨めな妻の終わり
はじめまして、作者のAvelinです。
裏切りから始まる、甘くて溺れるような御曹司ラブストーリー。
1話目は、主人公の人生が大きく変わる「惨めな夜」から始まります。
──雨音が、世界を包み込んでいた。
冷たい夜の闇の中、ふいに赤い傘が視界を覆う。
「……やっと見つけた。俺の子猫ちゃん」
低く、甘く、どこか危険な声。
月明かりに濡れた銀色の髪が、雨粒とともにきらめいた。
差し伸べられた手に触れた瞬間、心の奥まで熱が走る。
……でも、それは、この数時間前のこと――
廊下の角を曲がった瞬間、息が止まった。
夫が、見知らぬ女を抱きしめている。
「いつも可愛いな……食べちゃいたくなる」
「きゃあ♡……もぅ〜やだぁ」
その甘い声も、優しい笑みも――
私は一度も向けられたことがない。
(この女に……私は負けたってこと……なの?)
浮気相手は勝ち誇った笑みを浮かべ、
「奥さま、哀れね。愛されもしないのに、妻の座だけ必死に守って」
胸の奥が、ぐしゃりと潰れる音がした。
夫は、不気味に笑って――
「早かれ、遅かれ……だったんだろうな」
(あぁ……完全に終わったわね)
皮肉を吐き捨て、私は屋敷を飛び出した。
外は、冷たく重たい雨。
新品のヒールが濡れた石畳を叩く。
バキッ――
ヒールが折れ、赤い傘が転がり、
フリルのドレスは雨に濡れて重くなる。
(お気に入りの傘も、ヒールも、夫に買ってもらったドレスも……)
「どうして……こんなに惨めなの、私」
頬を伝うのは、雨か涙か、もうわからなかった。
「あんな奴……絶対に見返してやる」
「絶対に、愛に溺れさせてくれる相手を見つけるんだから」
足音が近づく。
次の瞬間、赤い傘がそっと差し出された。
「……大丈夫ですか?」
あたたかく、優しい声が胸にしみる。
顔を上げると、銀色の髪、スーツ姿の長い脚。
拾い上げられた赤い傘を差し出しながら――
彼は、私の目をまっすぐ見つめて微笑んだ。
「……やっと見つけた。俺の子猫ちゃん」
その声は、雨よりも冷たく、私の心を確かに掴んだ。
なのに──なぜだろう。背筋に、小さな震えが走った。
「もう、逃がさない」
傘越しに見た彼の瞳は、甘さの奥に何かを隠しているようで……。
私はその正体を、まだ知らない。
(──この出会いが、私の人生をさらに狂わせるなんて)
お読みいただきありがとうございます。
1話目は、惨めな妻の終わり――そして、運命の出会いのはじまりでした。
次回から、御曹司の甘くて危険な溺愛が始まります。
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