最終話:再召喚
黒い空間と光る人型。
ここってもしかして…でも……
「私にはついさっきのことですが、『久し振り』と言うべきでしょうか。
100年を過ごし終わり、貴女はここにいます」
やっぱり神様だった。
って、100年経った…?
私があの村に行ったのは収穫祭の前日だったはず。
さっきまで収穫祭やってました。
幼女が握ってくれた手の温もりも残ってる!
「貴女が転移した年の収穫祭は1日延期されていました」
…そうだったんですね。知らなかった…
「さぁ、約束どおり『貴女が過ごした100年の思い出』を話してください。
100年という刻の中で、何を見て、何を思ってきたか」
……はい。
私の100年は、優しい人たちに囲まれて楽しく、
でも……悲しい100年でした。
「何が楽しかったですか?」
みんなと一緒に過ごしたことです。
遊んだり、農作業をして…。
野菜が育つのを見て、それと同時に子供たちが育つのを見て、
全部ひっくるめて、楽しかったです。
「何が悲しかったですか?」
一緒に楽しく過ごしたみんなが旅立っていくのを見送ることです。
それだけが、悲しかったです。
「楽しさから距離をとれば悲しさを遠ざけられたのではないですか?」
そうかも知れないけど、旅立ちを見たくなくて人と付き合わないっていうのは違うと思います。
それは…寂しい生き方です…。
「死を求めた貴女が今まで生き続けられたのはなぜですか?」
一緒に過ごした人に言われました。
どんなことでもいいからみんなと話すようにって。
悲しさを閉じ込めなくていいって。
その言葉に、救われました。
「"不老"となった理由はわかりますか?」
お母さんを悲しませたからですよね。
死んじゃってお母さんを悲しませたから、
人の旅立ちを見送り続けて、お母さんの受けた悲しみを知るため、そう思っています。
「100年、多くの死を見続けた貴女に問います。
"生きる"とはどういうことだと思いますか?」
……まだ、よくわかりません。
命を繋ぐこと、気持ちを繋ぐこと、
それっぽい言葉は言えるんですが、
私の中にその答えが出来ていないような気がして……
「これは正解のない問いです。
人によって当然かわります。
貴女の答えた内容も、すごく大事な"答え"です。
私からの問いは、最後の1つを除いて聞き終わりました。
何か聞いておきたいことはありますか?」
…神様。
あの子ってリオナの生まれ変わりだったり…?
「………」
神様…?
「人は限りある命だからこそ命を燃やして生きる。
死んだ人を生き返らせるというのは
懸命に生きる人を冒涜する行為。
もしそれを奇跡と信じる者がいるならば私は否定する。
それは“命の重み”を知らない者の幻想だ」
……はい。分かっていたつもりでした。
でも……あの子に会って、名前を呼んでもらった瞬間、そうじゃなくなって…ごめんなさい。
あと…ありがとうございます。
…ちゃんと、言葉にしてもらえて良かったです。
「…奇跡とは願いがそのまま叶うことではありません。
大切だった人が生き返ることではなく、
大切な人を失っても、それでもまた笑える日が来る。
それこそが奇跡です」
はい…。
「では、最後の質問です。
あなたには3つの選択肢があります。
通常どおり魂の輪廻に戻るか、
100年過ごした世界に戻るか、
私が管理する別の世界に転移するか、です」
100年過ごした世界でお願いします!
「……理由を聞いてもいいですか?」
(ん?いま笑った?)守りたい約束があるんです。
「わかりました。すぐ行きますか?」
はい。子守をお願いされてるから。
前回と同じく、少し離れたところで入口が音もなく現れる。
いざそこへ向かおうとして、立ち止まる。
あ…神様!
「何ですか?」
地球にいたときの私のお母さん、
私が死んだ後ってどうなったんですか?
「貴女が別世界に移って100年経過。寿命を考えればわかること。そして幸か不幸かの価値観は人によって違う。貴女が知る意味はない」
そ、そうだけど…わかりました。
どんなに聞いても教えてもらえなさそうだ。
諦めて入口に向かって足を踏み出した。
「……老衰でした」
……! ありがとうございます!行ってきます!
「いってらっしゃい。Have a good journey,my dear.」
身体が熱を帯びたように感じ、
入口に向かって勢いよく走り出す。
お母さん、悲しくても最期まで生きたんだ。
私、お母さんの娘でよかった!
立ち止まったら爆発しそうなくらい身体が熱い。
走る勢いそのままに入口へ飛び込んだ。
転移が始まるのだろう。
黒く覆われていた視界が白一色に染まる。
ーー頑張って生きるからね。
ーー見てて!大好きなお母さん!
〜〜〜
最初に視界に映ったのは目の前で手を繋いだままキョトンとしている幼女。
そして周りでアタフタする村人たち。
大泣きした瞬間に神様に喚ばれ、向こうで涙が収まった状態で戻されたのだ。
…情緒不安定すぎる。
自分で思うんだから周りの村人がどう思うかなんて火を見るより明らかだ。
先ずは幼女に謝って、この場を離れながら何をして遊ぶか考えよう。
100年過ごしたんだ、きっとすぐに思いつく。
幼女と手を繋いだまま歩き出す小桃の顔は、涙の跡が残る笑顔だった。
「ももねぇ、あれほしい」
「ん?クッキー?飴かな?」
「うぅん、ドードー!」
「………ぷっ………あははは……ふふ……
…泣いてばかりで……ほんと、ごめんね……あはははははははっはっははっははははっ……!」
せっかく乾いた涙の跡を、さらに違う種類の涙がまた濡らしていた。
〜とある町の酒場にて〜
商人1「あそこの村行ったか?いつも泣いてる魔女。見てて辛気臭くなるぜ」
商人2「見た見た。可愛い子がずっと泣いてるからこっちまで悲しくなっちゃうわ」
商人3「あれ?じゃあ人違いか。オレが見たとき腹抱えて大笑いしてたんだけど」
〜 fin 〜




