11話:移住者
ここで生活を始めて何年経ったか分からない。
たしかここに来たのは収穫祭の前日だった。
ーー明日が収穫祭。
今日戻されないのならまだ100年経っていないのだろう。
私はずっと考えていた。
私は何のために生きているんだろう。
旅を終える村人と話し、安らかな顔でまた次の旅へと向かうのを見送ると安心する。
そして次の瞬間にはその気持ちが重い悲しみに押し潰される。
もしまたトウヤのように告白されたら、また断ることになる。
それはその人を苦しめるのではないか。
私が苦しみを我慢してその人が幸せならいいのではないか。
でも苦しむのは嫌だ。
私がいるから私が苦しむのではないか。
私がいなくても村は続いていくのではないか。
私はなぜ………
マダイキテイルノダロウカ
〜〜〜
そんなある日、3人の旅人らしい男たちが村に来た。
旅人にしては随分と荷物が多く、商人にしては荷物が少なく見える。
村人に聞いたのだろうか、畑の手入れを手伝っていた私のところへまっすぐ歩いてきた。
「いたいた。あんたが噂の魔女か」
「そう呼ばれてはいますが…何かご用でしょうか?」
「遠くの町に住んでたんだが、噂を聞いて来たんだ。この村に住めば幸せに暮らせるってな。
…こんなシケた村に何があるんだか……そうか!魔女の力がすごいんだな!」
「私には何の力もありませんが、移住するのでしたら歓迎します」
「おう!ありがとよ!さっき村の人に聞いたが先月1人死んだらしいな。
1人死んでも3人増えるんだから村も大歓迎だろうよ」
「!?…………移住については村の人に聞いてみてください。私は仕事がありますので……」
「そんじゃ世話になるぜ。よろしくな、魔女さんよ」
3人は周囲を見渡し、目に入った村人の方へ歩いていった。
私は我慢出来ず、近くの家の軒下でしゃがみ込んだ。
もうダメ。涙が抑えられない。
今すぐ家に閉じこもりたいけど
泣きながら歩いたら村の人達を心配させる。
ここで落ち着くのを待つしかない……
「小桃様。どうかしましたか?」
村の人が2人、声をかけてきた。
「…ぐすっ……すみません……」
2人は泣き続ける私の近くにきて一緒にしゃがみ込んだ。
「何かあったんですか?
どんなことでもいい、小桃様、お話してください」
私は村に移住者が来たことを話した。
それだけを話そうと思ったのに、溢れ出る言葉が止められない。
「…あの人たちに…言われました…。
1人死んでも3人増えたって。
……違う!なに勘違いしてるの!!
"3人増えたけど1人死んだ"よ!
人数が増えればそれでいいの!?
それを…私に!私に言うの!?
私が……私がどんな気持ちで!………っ、…うぅ…っ……!」
2人は驚いた顔で私を見た後、顔を見合わせ何も言わず走って行った。
どこに行ったのか分からない。
もうどうでもいい。ぜんぶどうでもいい。いまはこのいやなきもちがなくなるのをまつしかない。とおざかるきがしない。でもまつしかない。はやくいなくなって。いなくならない。。。
〜〜〜
少し落ち着いた気がして顔を上げると、村人が5〜6人走ってくるのが見えた。
「小桃様。すみませんが今日は村長の家に泊まってください。
村長の奥さんがどうしても小桃様と一緒に眠りたいらしくて、どうか我儘を聞いてあげてください」
私は村人の優しさを感じつつ、でもすごく恥ずかしい思いも感じながら頷いた。
村人に手を引かれて歩きながら聞いた。
村人全員で新しい移住者を追い出したらしい。
かなり乱暴に。
それを聞いた私の心には、
さっきからずっと別の気持ちが重く居座っていた。
ーードウデモイイ




