05話⑧:隣村の村長①
村長が旅立ってから1か月経った。
村で冬超えの準備を手伝っている私の所に、初めて見る男性が近づいてきた。
「こんにちは。村長はどちらにいますか?」
「こんにちは。えっと……あ、いたいた。村長さーん」
次の村長になった人を見つけ、
手を振りながら声を掛けると目が合った。
「あの人がそうです」
「わかりました。ありがとうね」
男性は村長の所へ歩いていった。
ちなみに次の村長になったのはトウヤだった。
……。……。……。
薪をどんどん束ねていく。
隣で一緒に束ねるリオナと同じ速さで。
「桃姉、最初は束ねられなかったのに速くなったよね」
「毎年やってるから速くもなるよー」
束ねる薪がなくなり、2人同時に立ち上がって腰を伸ばす。
ほぼ同じ身長になったリオナと目が合って笑い合う。
しばらくは薪割り待ちかな。
そう思っていると、村長と先ほどの男性が歩いてきた。
「小桃様、こちらは隣村の村長です。
小桃様とお話がしたいそうで」
「あ、わかりました。えっと………」
「桃姉、あとは私が片付けるから大丈夫だよ」
「ありがとう、じゃお願いね。
…少し歩くんですけど、私の家でもいいですか?」
「はい。もしかしたら長い話になるかもしれないので助かります」
「……?」
一体何の話だろう。
男性を案内しながら、私は家へ歩き始めた。
「この村は良いですね」
歩きながら男性が話す。
「そうですね。みんな仲が良いし、食べ物も沢山作れるし」
「はっはっはっ。
…うん、そうだな。それもあるな」
「??」
「本当はもっと早くあなたとお会いしたかったんです。
村長…あ、前の村長がね、よく言ってたんですよ。
『ウチの魔女さんは可愛いぞ』ってね」
「そんなこと言ってたんですか?恥ずかしい…」
「いやいや。前の村長の言う通りだと思いますよ。
…っと、話が逸れたか。
村長の仕事が忙しくて村から離れられなかったんです」
「村長さんの仕事って大変なんですか?」
「うん。村の中をまとめて、他の村とのやりとりもする。
どの村の村長もやることは同じだよ。
…でも、この村だけが違う」
「……それは?」
「この村は村人全員が"村長"になれるんだよ。
村長の仕事を全員が知っているし、村長1人にそれを押しつけてない。
もちろん顔を立てるところは立てるが、村全体が助け合って同じ方を向いてる、良い村なんだよ」
「他の村は違うんですか?」
「ああ、違う。みんな面倒なことはしたくないし、言いたいことを好き勝手に言うだけだ。
…先月亡くなった村長が長い時間を掛けて作り上げたんだろうな。
本当にすごい人だ」
「はい…すごく、良い人でした」
「もしかしたら貴女がいた事も理由かもしれないですね」
「私は、ただいるだけですし…ようやく着きました。こちらです」
「ありがとう、お邪魔しますね。
この家も…なんだか落ち着きますね」
私は男性を家の中に招き入れた。




