表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泣き虫魔女の異世界旅  作者: 小桃 綾


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/34

05話⑦:村長の旅立ち


私がこの村に来てから10年経った。


村に雪が降り始めたある日、村人が私を呼びに来た。

どうやら村長が私を呼んでいるらしい。


ここ数日、村長は体調が悪くずっと床に臥せっていた。

今までに感じたことのない不安を胸にしながら、村人と一緒に村へと向かった。


村長の家の奥まで入ると村長がベッドに横たわっていた。

少し離れたところに村人たちも座っている。


ベッドに駆け寄り、座り込んで村長の右手を両手で包み込む。


「……小桃…か」

「はい。村長さん」


私に気づいてくれたのか、目を開けて村長が応えてくれた。


「…ずっと姿が変わらん。本当に"不老"じゃったな…」

「村長さんも……初めて会ったときと変わらず、ずっと面白いおじいちゃんですよ」

「…ははは……

歳には勝てん。こればかりは、どうにもならんな」


村長はゆっくり左手を上げ、その手を私の頭に置いた。


「お前はツライ思いをするかもしれん。

ワシらには、どうすることもできん。

……小桃や。どうか、笑顔でおってくれ。

お前が笑うと…みんな嬉しいからな」


涙をこぼしながら、私は頷いた。


私がこの世界に来て初めて会ったのがこの人だった。

冗談を言いながら手当てをしてくれて、

村で過ごすことを許してくれて、

今ここにいられるのは全てこの人のおかげだ。


その人がいなくなってしまう。

会えない。話ができない。

この後どうすればいいのか分からない。

何か言いたいのに、喉が詰まって言葉が出ない。

涙が止まらないまま、私は村長を見ていた。


村長は微笑むと、私の後ろにいる村人たちに視線を向けた。


「…みんな…頼むぞ…

……ワシらができるのは…“この村に生きてよかった”と…そう思ってもらうことだけじゃ……

頼んだからな…」


村人たち全員が頷く。

村長は私を見て、言葉を続けた。


「…小桃にも、みんなにも、言いたいことは言った。

…さぁ、大事な時間じゃ。婆さんと話させてくれ」

「…ぐすっ……本当に、ありがとう…ございました…」


私は包んでいた手を額に当て、喉から絞り出してお礼を言うと、静かに手を戻して後ろに下がった。


入れ替わるように村長の奥さんが近づき、

ベッドに腰を下ろして村長の手を握る。


部屋の空気が変わった。

どこかあたたかく、静かで、誰にも邪魔できない時間がそこにあった。


二人で何を話しているか聞こえないが、きっと楽しい話だ。

二人とも、優しい笑顔で言葉を交わしているから。



しばらくして、村長が旅立った。

私が初めて経験する"親しい人との死別"を、

止まらない涙と悲しみの重さで感じていた。


外は冷え込み、静かに降っていた雪が村を少しずつ白く染めていく。


家の中にいる私の心にも、それは静かに降り積もっていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
村長さん。 大抵は年長者だろうから10年は長かった方なのかもなあ……………。 不老だという小桃はこれからも様々な人を見送る立場なんだよねえ。 耐えられるのかな、泣き虫魔女……………。
村長さんが……。 。:゜(;´∩`;)゜:。 まだ10年だから若作りの範囲で済みますけど、これから月日を重ねるほどに不老の異常さが目立ってくるのでしょうね。 果たしてその時に受け入れてくれる人がどれ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ