05話⑥:育成
私がこの村に来てから5年経った。
冬の寒さはすっかり収まり、暖かい季節になった。
村の畑や水田の仕事が一段落着き、
私は子供たちと新しく作った畑に来ていた。
2年前に子供たちと一緒に開拓した『桃畑』は、
育生の成功をキッカケに倍近い広さとなった。
大人たちが乗り気になり、そのまま放っておいたら
もっと広い畑になるところだったが、
「子供たちと遊び感覚でやるから」と説得してこの広さで収まった。
大人たちにとっては
『育たなかった野菜が育つ』ことよりも
『子供が遊びながら畑仕事を覚えてくれる』ことが
重要だったらしく、私の話をスンナリ聞き入れてくれた。
規模が大きくなれば作れる量も増える。
だが、当然手間も増えるし、遊びではなく"仕事"になる。
今はそれよりも『自分たちが世話をした野菜が育つ喜び』を育てたい。
そう思っている。
子供たちが村の畑仕事より『桃畑』の世話をやりたがるのは少し罪悪感があるが。
もしかして育ったのはこの畑に対する愛着心かもしれない…
おしゃべりしながら草むしりする子供たちを見ながら、私は思っていた。
「キレイになったね、ありがとう!
明日はいよいよニンジンの種まきだよ」
「「「わーい」」」
畑を大きくすると人手が足りなくて破綻する。
でも、もしこの子たちが大きくしたいと言ったら、そのときは広げよう。
子供のやる気を潰したくないし…
子供たちと一緒に村へ帰りながら、
私はレンゲの苦痛に耐えられるのか心配になっていた。
〜〜〜
村に着くと見覚えのある馬車が停まっていた。
近くには、随分腰が曲がってしまった村長とトウヤ、
初めて見た時よりも白髪が増えた商人、
それと見たことのない少年がいた。
「トウヤ、種イモを隣村に持っていけ。
ついでに農作業の進み具合を見てこい。
お前が判断していいから、遅れてると思ったら
『2〜3人貸してやる』って向こうの村長に言え」
「わかりました、行ってきます」
トウヤとすれ違いざまに手を振り合い、村長の元に近づく。
「おぉ、小桃。商人がお前に生贄を連れてきとるぞ」
「ヒッヒッヒッ、気が利くな坊主。
そろそろ使い魔が欲しいと思っとったんじゃ」
「…こんにちは魔女さん。大事な跡継ぎ息子だからあげませんよ。ほら、挨拶しなさい」
「こんにちは、お父さんから話を聞いてました。
……黒ずくめの老婆じゃないんですね」
「あはは、もっと怖い見た目だと思ってた?
最近の魔女は多様性を重んじているんです。
初めまして、よろしくお願いしますね。
…商人さんって結婚してたんですね。
旅して周ってるから独身かと思ってました」
「はい。町に店を構えてて妻に任せているんです。
いつもは息子も店の手伝いをしてるんですが、私が元気なうちに旅商人の仕事を見せておこうと思いましてね」
「すごく素敵な考えです!
…お父さんは立派な仕事をしてるんですよ。
この村で手に入らないものを持ってきてくれるから、すごく助かってるんです」
「ありがとうございます。お父さ、父を褒めてもらえると嬉しいです。」
「うんうん、お手伝いしながらしっかり見て覚えるんですよ。
覚えたことは絶対無駄にならないからね」
「はい!」
「商人よ、そろそろ荷下ろしをしてくれ。
子供たちが待ち構えておるからな」
「そうですね、始めましょう」
商人が荷台に上がり、他の人たちが下で荷物を受け取る。
村の子どもたちも手伝ってどんどん片付いていく。
村長も荷物を持つが、腰が曲がっているせいですごくツラそうだ。
「私が持ちますよ」
「おぉ、すまんな。やはり歳には敵わんな、はっはっはっ」
子供たちが頼もしくなっていくのと同時に、見えてしまう"年月の経過"。
成長は喜ぶべきことなのに、
私は少し悲しさを感じていた。




