05話⑤:命を繋ぐもの
私がこの村に来てから3年と半年が経った。
寒い日が少なくなり、春が近づいてくるのを感じるようになってきた。
あと数日もすれば村の農作業が本格的に始まるだろう。
その前にやらなければいけない作業がある。
私はクワを持ち、子供たちを連れて年末に開拓した畑に来ていた。
何をするか気になっていたのかトウヤも一緒だ。
小さい畑には蓮華の花が咲いていた。
葉っぱの緑と花のピンクが目に優しく映る。
しゃがみ込んで蓮華の花を愛でる。
可愛いなぁ。咲いてくれてありがとうね
まだ蕾の方が多く、満開にはなっていない。
初めてなのでしっかり咲かせていいかもしれない。
でも、栄養が多すぎるのは良くないし、少ない方が融通が利く。
でも…でも………
「これをどうするんだ?」
ずっと蓮華を眺めている私に痺れを切らしたのかトウヤが声を掛けてきた。
「この蓮華をそのまま耕すと土の栄養になってくれます。そうすると野菜が育ちやすくなるんです」
「へー、初めて聞いたな。
まだ咲ききってないようだが、いいのか?」
「はい。咲きすぎると栄養が多すぎて逆に良くないんです」
「なるほどな。
…で、今は何をしてるんだ?」
「蓮華を愛でています」
「うん、見えた通りだったか。これを耕すんだな?」
「………」
「小桃?」
「よし!やっぱり明日にしましょう」
「絶対やらねぇだろ、それ!
咲かせすぎると良くないんだろ?」
「私には聞こえるの!『明日はもっとキレイに咲くよ』って」
「言ってねえよ!ほら貸せっ」
「あぁ!待って!待って!」
トウヤが私のクワを持って振り下ろす。
ザクッ!
「あぁっ!ひどいっ!ひとでなしっ!」
「こうするためにお前がタネ蒔いたんだろうが!
なんでオレが悪いみたいになってんだよ!」
「…そうだけど…」
「ほらっ、小桃が耕せ。優しい気持ちを込めて耕せばレンゲも喜ぶだろ」
トウヤがクワを押し付けてくる。
弱々しい手つきで受け取り、畑に下ろす。
さくっ
「そんなんじゃ喜ばねえよ。ちゃんと振りかぶってしっかり耕せ!」
「うっ…っ……」
クワを下ろすのに合わせて涙の粒も落ちる。
ザクッ、ザクッ、ザクッ……
「もう少し…咲かせてあげたいけど、このままじゃ、次の命が育たないから。
……ごめんね。土になって、また咲いて。
今度は違う誰かのために…」
「ボク、泣きながら畑耕す人初めて見たよ」
「ももねえ優しいから」
「オレも初めて見たよ。そんなヤツいねえしな」
涙を流しながら畑全部を耕した。
耕し終わって子供たちに慰められながら聞かされた。
この畑の名前は『桃畑』に決めた、と。
育てるの桃じゃないんだけど。




