05話④:新規開拓②
午後、私は草むしりの終わった畑(仮)に来ていた。
子供たちはお昼寝の時間のため、ここからは私1人だ。
持ってきたクワを置いてまずは、
…カワラナデシコを愛でる。
冬が近くなり、花びらはかなり細くなってしまっているが、それでも可愛い。
線香花火のように細いピンク色が風に吹かれてゆらゆらと揺れる。
もう少ししたら枯れるかな。
残りの日にちを頑張って咲いて、
来年もまた、キレイに咲いてね。
ーーよし!仕事しよう!
踏ん切りをつけるように勢いよく立ち上がった。
「うぉっ!」
「えっ?」
振り向くと後ろにトウヤが立っていた。
「わっ、トウヤさん、どうしたんですか?」
「小桃が畑を作るって聞いてな。
灰を集めてたって聞いて様子を見に来たらしゃがみ込んでて、急に立ち上がったからビックリしたよ」
「あはは、ごめんなさい、お花見てただけなんです。畑作りはこれからです」
「…そうか。何か手伝おうか?」
「手伝ってもらえれば早く出来るけど、うーん…子供たちが嬉しそうだったからなぁ」
「それなら、あまりやり過ぎるのもよくないな」
「あ!じゃぁ耕すの手伝ってください。私が灰を撒くので、その後で」
「わかった。って、灰を撒くのか?」
「はい。…前に聞いたときから思ってたんです。
この村ってジャガイモがよく育つし、
お米が作れるくらい水がたっぷりあります」
「そうだぞ。ジャガイモを他所の村に渡せるくらい作れるな」
「でも、ニンジンは毎年育ちが悪い。
この村の土って"酸性寄り"じゃないかなって」
「さんせー…なんだって?」
「んー、説明が難しいなぁ。…土にも種類があるんです。
で、野菜にもそれぞれ好きな土があるんですよ」
「なるほど…ここの土はニンジンが嫌いな土ってことか?」
「私の考えが合ってれば、多分そうです。
で、その土の種類を変えるために灰を使うんです」
「へー。それも小桃が元々いた場所の知識か?」
母親と一緒に庭で野菜を作って、夜は一緒にネット動画を見て勉強してた。
……お母さん元気かなぁ
「小桃?」
「…あ、はい。そうなんです。
遠慮なくこき使いますね、深く耕してください」
「本当に容赦ないな、わかった」
灰を撒いた畑をトウヤに耕してもらう。
やはり手慣れた男性だ、畑が狭いのもあるがあっという間に終わってしまった。
「次はどうするんだ?」
「村に行って火種を持ってきて欲しいんです」
「わかった、ちょっと行ってくる」
トウヤが村に行ってる間、午前にむしった草を畑に広げる。
天気が良かったからいい具合に乾いている。
「持ってきたぞ」
「ありがとうございます。枯れ草に火をつけてください」
「わかった。これにも理由があるのか?」
「これで土の中に残ってる草の根っこを燃やすんです。ついでに悪い"虫"も燃やします」
「変なことをしてるとしか思えないんだがな」
「必ず上手くいくとは言えません。
私が元々いた場所にはもっと簡単に出来る方法があって、それに近いやり方を試しているんです」
「小桃がいたところってすごいんだな」
「住んでたときは何とも思わなくて、それが"普通"だったんです。
すごい世界だったんだって、今は思ってます…」
………
不意に訪れた沈黙に嫌な空気を感じて無理やり声を掛ける。
「火を見ててもらえますか?消すための水を汲んできます」
「オレが行ってくる。小桃は待っててくれ」
「あ、ありがとうございます」
手を振ってトウヤが歩いていく。
…気を遣わせちゃったかな
村人たちを心配させないように振る舞ってきたが、
以前のことを話してつい思い出してしまった。
立ち上がり、カワラナデシコのそばにしゃがみ込む。
私はいつまで咲き続けられるんだろうか
ーー枯れても、また咲くことは出来るんだろうか…
「そんなに花が好きか?」
「…はい。特にこの子が好きなんです。
見た目も、毎年咲いてくれるとこも」
トウヤが桶に水を汲んで戻ってきたので、燃え尽きた枯れ草に水をかけてしっかり消火する。
「このあとはどうするんだ?」
「今日はこれで終わりです。
明日子供たちと一緒に軽く耕して、数日置いてから種まきです」
「種まき?この時期にか?」
「はい。商人さんにお願いしてて、この前受け取ったんですよ。
蓮華のタネ!」
ポケットから小さい布袋を取り出して見せる。
「レンゲ?ニンジン育てるんじゃないのか?」
「ニンジンは少しあとです。まずはこの子にがんばってもらうんです」
トウヤがポカーンとしている。
まぁ、その顔をするのもわからなくはないです。
理由が分かれば腑に落ちるでしょうし。
それよりも…
この子が咲いたあとのことを考えると気が重くなる。
…今は考えるのはやめよう。
後片付けをしてトウヤと一緒に村に戻る。
ふと視界に入ったカワラナデシコが優しく揺れて、慰めてくれている気がした。




