05話②:商人の来訪②
お昼近くになって村に戻ると、村長と商人が話をしていた。
「おお、小桃。戻ったか」
「はい、村長さん。…2人で話し込んで悪だくみですか?」
「うむ。小桃も巻き込んで一儲けしようって話じゃ。
家で話すから商人と一緒に来い」
「イヤですよ悪事の片棒を担ぐなんて…待って腕掴まないで」
「まぁまぁ。別に悪い話って訳じゃ…ないとも言い切れないけど行きますよ」
「やだー。私は清く正しく生きたいのー」
「おーい。小桃と商人を連れてくぞ。
3人で悪だくみするから午後の作業は任せたからな」
村長の声を聞いた村人が笑いながら手を振ってる。
ーーうそっ!誰も助けてくれないの?
っていうか悪だくみって言っちゃうんだ!?
村人に笑顔で見送られながら私は連行されて行った…
〜〜〜
「腹が減った。食いながら話そうか」
「はい」
「一体どんな話が出るんですか…?」
村長の奥さんが食事を用意してくれた。
いい匂いが漂うが、どうしても話題が気になってしまう。
「そう怯えるな。商人が変な話を聞いたらしくてな、小桃にも聞いてもらいたいんじゃ」
「変な話?」
「はい。ここからだいぶ離れたところにある村で聞いた話です。
…朝は子供たちがいたので念の為に話さなかったんです」
「そうだったんですね。
…で、どんなお話なんですか?」
「ある日、見覚えのない若い男が村に現れてこう話したそうです。
『オレは死なない身体だ』
『猛獣はどこだ。オレがムソーしてやる』って。
村人は変なヤツだと思いながら適当に山を教えると、男は走って行った」
「ムソーってなんじゃ?」
「分かりません。魔女さんは分かりますか?」
「……私の知ってる意味で合ってるなら、蹴散らすって意味です」
「昨日、小桃は畑の盛り上がった土をムソーしてた訳じゃな」
あまりにも可愛い無双で笑ってしまった。
「もうちょっと激しく、蹴散らしまくるって意味ですね」
「猛獣を蹴散らしまくる…意味は合いますね」
「多分ですけど、その人は私と同じところから来たのかもしれないですね。
その人は今もいるんですか?」
「いえ、死にました」
「………えっ?」
「男が走り去って数時間後、山の方から悲鳴が聞こえたらしいです。
村人数人で探していたらオオイノシシに襲われている男を見つけた」
「………」
「オオイノシシか。ありゃ1人では無理じゃな」
「村人が追い払ったものの、男の怪我は酷く…。
最期は空を見上げて呟いたそうです。
『まだ何もしてねぇのに』って」
「小桃。何か思い付くことはありそうか?」
「……私が元々いた世界には物語がたくさんありました。
その中には"不老不死"の物語もあって…」
「男はそれを言っていたと?」
「分かりません。…でも、神様が私に言っていたのは"不老"だけだったような…」
「小桃、試してみるとか言うなよ?」
「しないですよ!痛いのイヤなんですから!」
「うむ、それでいい。命を粗末にするヤツはバカじゃからな」
話が一段落して食事を始めたが、
私はずっと考えていた。
言葉の感じを聞くと、その男が現代日本から来たのは間違いなさそうだ。
死なないと思ってたのに死んだその男は、どれほどの恐怖と絶望を感じただろうか。
ーー不老だけど、不死じゃない?
すごい能力は何もなく、こんな中途半端に思える条件を付けて、
神様は何故、この世界に人を送ったのか。
どんなに考えても、答えは出なかった。




