05話①:商人の来訪①
私がこの村に来てから1年経った。
明日は村で収穫祭が行われる。
『もう1年経った』と思うし、
『やっと1年経った』とも思う。
左手小指にうっすらと残る古傷を見ながら、
ここに来た時のこと、今日までのことを思い出していた。
来たばっかりの頃は"お客さん"みたいに扱われることがあったけど、
今はみんなが声を掛けてくれるし、普通にお手伝いも頼まれる。
これからも、いろいろあるんだろうなぁ…。
「よし!今日も1日がんばるぞい!」
軽やかな足取りで村へと歩き始めた。
〜〜〜
村の広場が見えると同時に、見たことのある馬車が目に入った。
その横では男性が子供たちに囲まれていて、
私を見つけると手を振ってくれた。
「魔女さん、おはようございます」
「イーヒッヒッヒッ。なんじゃ坊主、今日は何用でここに来たんじゃ?」
「その笑い方、キャラじゃないからやめたほうがいいですよ」
「なんてこと!まだ魔女レベルが足りないのね!
……ふふっ、商人さんおはようございます。
1年ぶりですね、お元気そうで良かったです」
「はい。魔女さんもお変わりなくて何よりです。
…本当に"お変わり"ないですね」
「まだ分かりませんよ?きっと成長期が遅いんです。
次に会うときはわがままボディーになってますから」
「はっはっはっ、それは怖いですね。
誘惑に負けて積み荷全部差し出さないように気を付けなくては」
「あっはっはっ…あ、商人さんに聞きたいことがあったんです。
この世界に紙ってありますか?」
「紙?ありますよ。
私は商人ですからね、契約を交わすときに使います。
でも高価だから一般的ではないんですよ。
村で暮らしていても使わないでしょう?」
「そうなんです。
でね、書くためじゃなくて紙そのものが欲しいんです。
書き損じた紙とかって貰えませんか?」
「それであれば…枚数は少ないけど大丈夫ですよ。
どのくらい必要ですか?」
「多ければ多いほど嬉しいです!」
「なら商人仲間にも言って集めておきましょう。
あ…読まれたくないものもあるか…」
「塗りつぶしていいです。むしろそっちの方が嬉しいな。
いろんな色で塗りつぶしてあると見た目が華やかかも」
「何に使うか分からないですけど、いいですよ。
それほど荷物にもならないし、お任せください」
「ありがとう!よろしくお願いします!
今日は泊まりですか?」
「はい。今日と明日、村長さんの家に泊めてもらいます」
「じゃぁまたお話出来ますね。
これから子供たちと遊びに行くので、また後ほどね」
「はい、また後ほど。気を付けて行ってらっしゃい」
私は商人に別れを告げて、子供たちと一緒に原っぱへ向かった。




