04話①:小桃のお仕事
わたしが小桃を別世界に送ってから3週間になる。
そろそろあの世界に馴染んでいる頃か。
どんな生活をしているか見てみるとしよう。
……ふむ、小桃は子供たちと一緒か。
遠くで大人たちが仕事をしているということは、
小桃は大人たちの仕事中に子守をする訳だな。
なるほど。
まだ幼いかと心配だったが、やるべきことの判断が鋭いな。
「今日は何して遊ぼっか」
「小桃さん!かけっこしたい!」
「うん。じゃあかけっこにしよう。お姉ちゃんそこそこ速いんだからね」
「えー、わたし遅いからやだー」
「まず一緒にかけっこしよう。
そのあとで違うこと考えようね?」
「うん!ももねえと一緒に走る!」
「んー…うん。あそこの木に誰が最初に着くかにしよう。
行くよ、よーいどん!」
「「「わーーーー」」」
「……え、嘘でしょ?」
「ももねえたのしいねっ」
小桃よ。そこそこ速いと聞こえたが?
「「「小桃さん頑張れー」」」
「ももねえたのしいねっ!」
「…ゴ…ゴール前で…な…舐めプ!?」
小桃よ。あれは舐めプではない。
純粋な応援だ。
むしろ隣でニコニコしながら小桃を見て走る子の方が舐め…
いや、楽しそうだからしっかり子守は出来ているぞ。
「はぁ…はぁ…みんな…速いんだね…」
「えー、普通だよー?」
「小桃さん、うんどーぶそくってやつ?」
「家と村の間を走るといいよ?」
小桃よ。家と村の間を走るといい。
「なんか…2回聞こえたけど…気のせい?」
「「「もう一回やりたーい」」」
「もっもう一回?…う、うん…」
小桃よ、今日はまだ始まったばかり。ペース配分を考えろ。
「あ!えっとね…遠くのあそこの家の壁を触って
ここに戻ってくるかけっこにしよう。
お姉ちゃんここで待ってて誰が一番か見てるね」
「わたし、ももねえと一緒にいるー」
ほう、考えたな小桃よ。労せずして楽しませるとはなかなかの策士。
…だが残念。スタートを言ってないのにスタート、既に折り返しているぞ。
「も、もう戻って来るの!?つ、次どうしよう…」
見せて貰おうか。現代日本を生きたJKとやらの発想力を。
「うるさいっ!いま考えてるから黙って!」
「ももねえこわーい」
「あ!ご、ごめんね。煽られたからつい…なんで??」
「いっちばーん!」
「にばーん」
「さんばーん」
「みんな速いね。すごいよー(…自己申告してくれて良かった)」
「つぎはー?つーぎーはー?」
小桃よ。そろそろ走るか?足が速くなれば子供にモテるぞ?
「足なんて飾りです。偉い人にはそれがわからないんですっ!……???」
「「「・・・・・」」」
「♥♥♥♥♥」
「ヤバい、子供たちつまらなそう……あなたはずっと笑顔ね、見てて嬉しいけど、
ってそうだ!ねぇ、みんなで枯れてない大きい葉っぱ採ってきて。
なるべく平べったいのがいいな。
あ、あなたは細い枝を2本拾ってきて。手で折れるやつね」
ふむ、何か思いついたか。
良い結果になるよう見守っているぞ。
「ありがとう。いい感じのを持ってきてくれたね。
まずは枝の長さを整えて…
葉っぱを長方形にして…」
「小桃さんなに作るのー?」
「ふふーん。ちょっと待ってて。
お姉ちゃんすごいの作るからね……
やりにくいけど出来なくはないはず…
がんばれ小桃!あなたはできる子!
あ、折り方間違えた…」
みんな真剣に小桃の手元を見ているぞ。期待に応えるんだ。
…一人だけ小桃の顔を見てニコニコしているが。
「ジャジャーン!見て!どうどう?」
「「「「えっ…なに?なにこれ!すごい!小桃さんすごーい!」」」」
「えへへ、すごいでしょう。
はい、かけっこで一番だったキミにあげるね」
「やったー!お母さんにも見せてきていい?」
「うん、いいよ。走っちゃダメだからね、危ないから」
「わーーーーい」
「…言ったそばから走るんだ。
ふふっ、よっぽど嬉しかったかな」
「ももねえわたしも!わたしも欲しい!作って!ジャ・ジャーン作って!」
「うん、いいよ。いま作ってあげるからね〜、ジャジャ………え?」
「作ってー、ジャ・ジャーン作ってー」
「な、何を言って…あっ!そういうこと!?」
「早く!早く!ジャ・ジャーン早く!」
「ちょっと待っててね。先にあの子つかまえないと…」
「欲しい!ジャ・ジャーン欲しい!作って!」
「あとで必ず作るから。ね、ちょっとだけ、ちょっとだけ待って」
「ジャ・ジャーン欲しいよー…うわーーーん」
小桃よ。走って行った子供は放っておいても……
そうか、追うか。
なら最後まで見守ってやる。
言うまでもないがあの子はかけっこで一番を取った猛者。
そして子供が走り去ってからその子を宥めているうちに既に7分24秒ロスしているぞ。
「…はぁ…はぁ…あの子どんだけ足速いの…それに…見せびらかし過ぎ!」
うむ、分かるぞ小桃よ。
会う人全員に「ジャ・ジャーンすごいですね」と言われ、
その度に訂正しても「え?なんて?」と返されれば
いくら優しい小桃の心もささくれ立つだろう。
「…もうダメ…あとで大勢集まったときに説明しよう。
あと…あれは紙飛行機!紙じゃないけどっ!」
小桃よ。この世界にはそもそも飛行機が存在しない。
意味を持たない言葉は響き方の好みで受け入れられる。
苦労して訂正する必要などなかったのだ。
〜〜〜
数日後、小桃が正しい名前を伝えるも説得に難航。
「カミヒ・コーキ保守派」と「ジャ・ジャーン追憶派」による熾烈な派閥争いが発生し、争いを起こした戦犯として小桃は捕らえられる。
捕らえられた小桃は泣きながらこう供述する。
『子供の笑顔が見たくてやった。悪いことはしていない』と。
訴えは退けられ、村人全員に対する「1か月、小桃にお菓子あげちゃダメ」が発令され争いは終結。
「カミヒ・コーキ保守派」の勝利となった。
〜〜〜
数年後。
小桃は偶然にも、名前変更を企み密かに暗躍する少数精鋭集団「ドードー静雷会」の存在を知ることとなるが、年月が過ぎ、何故そんな名前にしようとするのか全くわからないのであった。
「わたし悪くないもん!」




