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主人公には程遠い  作者: 利乃-Rino-
間章 無音の槍の誕生
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0-3 転校生×捜索

 来たる対決の日。

 いつものように授業を受けつつ、子守歌のような教師の声に耳を傾けながら、あくびをかみ殺したその時。

 バチンッと大きく電流の弾ける音がして、教室内の電気が一斉に消える。


「(──きた!)」


 思わず隣の席に座っている新木に目を向ければ、同じことを思っていたのか頷きが返ってきた。

 真昼間だ。電気が消えていようと視界は良好。


「先生。僕と琳、稲葉君は呼び出しがあるので抜けます」

「は──? ちょ、まっ」

「てことで、しゅっぱーつ」


 担任が何か言いかけていたが、琳が問答無用と新木と稲葉の両肩に手を置いたときだ。

 ずるり。音にすればそんなものだろう。

 三人の姿が闇に呑まれた。



******




「ここどこだ!?」


 一瞬で変わった視界に思わず叫ぶ。


「ここは西校舎前ですね」

「西校舎って、確か本部の近くだったよな。どうやってそんな遠くに……」

「僕の異能に決まってるじゃん」

「いや、俺お前の異能知らねーし。……なに?」

「内緒」


 わかりやすく「くそっ」と悪態を吐いたが、琳は素知らぬ顔だ。

 いまだに琳もそうだが新木の異能も教えてもらえていないのは、友情度が低いからなのか、なんなのか。


「さ、雑談はそこまで。お待ちですよ」


 新木の視線の先に、一人の女性が立っていた。

 気弱そうな顔立ちに、銀縁の眼鏡をかけた、三人よりも幾分か年上の女性だ。


「お久しぶりです、目良(めら)さん」

「知り合い?」

「管制室所属の本部役員の方で、何度か別件でお会いしたことがあるんです」


 目良と呼ばれた女性は三人の視線を浴びて、軽く頭を下げる。


「本案件を担当することになりました、目良鏡子(きょうこ)です。皆さんには西校舎立ち入りの許可が下りていませんので、詳細はこの場で説明させていただきます」


 鏡子も持っていたタブレットから、三つの立体ホログラムが映し出される。

 内二つは全く見覚えがなかったが、一つはどことなく既視感を覚える建物だ。しかし思い当たる節はない。


「東校舎──中等部だね」

「ですね」


 なるほど。見覚えがありそうでないわけだ。

 建物自体は高等部のものとよく似ている。


「三つだけですか」

「はい。現在情報が届いているのは、元々影響のなかった本部と中央街、そして最優先で復旧させた中等部周辺のみで、未だ電力ダウンした場所からの情報は一切届いていません。なので今彼らがどこにいるかは……」


 暗い顔をする鏡子。

 本来なら学園都市に設置されている監視カメラからの情報が送られて、学園都市内すべての様子を投影できるらしいが、現在はこの三か所以外は写せないようだ。


「復旧にはどのくらいかかりそうですか?」

「いまだ目処は立っていません。本人が出てきてくれれば早いんですけどね……」


 新木の問いに鏡子は頼りなさげに首を振り、フッと諦めたような笑みを浮かべた。


「本部役人が中等部生にいいようにやられて情けないね」

「う゛っ」


 琳の言葉がぐさりと鏡子に刺さる。

 琳の遠慮の無さは、本部役員だろうとお構いなしのようだ。


「相手十三歳だよ。おねーさんいくつ?」

「にじゅう、はちです」

「なんのEX? 役に立たないの?」


 無表情の琳から放たれる言葉に、鏡子の頭が下がっていく。

 その様子を哀れに思い、新木が「琳」と呼び止めた。


裏霧学園(ここ)じゃ年齢と能力の強さは比例しないんですから、そうイジメないであげてください。そもそも目良さんは電脳系のEXじゃないですから」

「新城ぐん~」

「目良さん汚いです」


 新木は微笑みを浮かべたまま、ばっさりと切り捨てた。

 先ほどまでの毅然とした態度を投げ捨てて、涙と鼻水を垂らす鏡子は確かに汚い。

 とどめを刺しているのは新木じゃないか、と思わなくもないがわざわざ口に出す必要もないだろうと、誰に言うでもなく一つ頷いた。


「で、事の経緯は?」

「すでに判明しています。彼らは東校舎三号館のPCを拠点に、中央街周辺を除く学園都市全域に異能を展開。結界で防ぐことのできた範囲以外全滅です」

「東校舎周辺の監視カメラの映像は?」

「十一時前までは正常に作動していましたが、現在は記録もすべて破壊されていて見れません」


  鏡子の報告を聞いて、新木は手を顎に当てて考える。

 その後ろで、こっそり琳に尋ねた。


「東校舎ってどこ?」

「中等部生が使ってるとこ。ちなみに僕ら高等部生が使ってるのは南校舎ね」

「なるほど」


 まだまだ覚えることは多い。


「電力停止のついでに、電流でも流して記録媒体ごと破壊されましたね。それで、生きている監視カメラに彼らは映っていないんですね?」

「は、はい」

「なるほど。それじゃあ、三人のうち誰かの姿が確認できたら連絡してください。それまで復旧に専念していただいて大丈夫ですから」

「えっ? あの、三人の居場所がわかるんですか?」


 にこりと新木が笑みを浮かべる。

 それは初めて会ったときに向けられたものとよく似ていた。


「中等部男子学生寮裏の森の中」


 どこかで誰かがくしゃみをした。


「にいるのが珠樹(たまき)翔馬(しょうま)友哉(ともや)は──南校舎五号館のそば」


 なんでわかった、とか。

 問題児どもの名前初めて聞いた、とか。

 いろいろと言いたいことはあったが、勢いよく襟を引っ張られ、終ぞその言葉が口を出ることはなかった。

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