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主人公には程遠い  作者: 利乃-Rino-
間章 無音の槍の誕生
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0-2 転校生×命名

 稲葉が裏霧学園に転校して来てから、早二週間が経とうとしていた。

 この二週間は何事もなかった、とは決して言いきれない非常に濃い日々であったが、今の問題はそれではない。


「えっ、そんなものないですよ?」

「うっそだろ!?」


 愕然とした。


「そもそもここは学園とは名ばかりの隔離施設みたいなものなんですから、そんな監視ができなくなるような期間があるわけないじゃないですか」

「お、俺の夏休み……」


 そう、裏霧学園には夏休みなど存在していなかったのだ。

 新木から告げられた衝撃の事実に項垂れるが、その大げさな反応に新木と琳が顔を見合わせる。


「まあ、そう気落ちしないでください」

「夏祭り……、花火……、海……」


 指折り夏の思い出になりそうなことを挙げる。

 普通に生活していれば馴染み深いイベントだが、新木や琳はいまいちピンとこないようで反応が薄い。


「お祭りなら学園祭を筆頭にいくつかありますし、花火も中央街(セントラル)の方は頻繁に上がってますよ。ああ、海に関しては学園都市から出ることができないので幻覚で我慢してください」

「俺が求めてるのは、そーゆーのじゃなくてだなぁ……!」

「そもそもイベントとか求める以前の問題でしょ。なんで二週間経って異能レベルが上がってないのさ」

「うっ、うるせーな!」


 恥ずかし気な声に、新木が苦笑いする。

 これは転校二日目に教えられたことだったが、異能にもレベルがあったのだ。

 異能の継続時間や成功率、発動の予備動作の有無であったりと、その条件はこと細かに定められているのだが、何を隠そうこの男、二週間経ってもまったく成長がなかった。


「そう簡単にできるかよ!」

「僕はここにきてから三日、新木は初日からレベル3超えたけど?」

「三日も二週間も大差ねーだろ!」

「いや、僕ら初等部の頃からいるから。成長レベル初等部生以下って自爆してるだけだからね、それ」


 否、琳との会話レベルは上がっていた。


「そもそも、なんで異能にまでレベルがあんだよ」

「そりゃ同じ異能でも能力値に差は出るからね。ある程度のレベリングは必要でしょ」


 行儀悪く自分の学生証を眺める。学生証の階級欄の横に書かれた2という数字は、自身の異能レベルが2であることを示している。

 聞いた当初はそれがい高いのか低いのかは分からなかったが、新木と琳が初等部の時点でレベル3に上がったことを踏まえると、かなり低いのだろう。


「まあ、稲葉くんの異能は雷ですからね。僕たちと比べても気軽に使えるものでもありませんし、多少手間取ることは織り込み済みです」

「新木……!」

「とはいえ、それはそれ」


 姿勢を正して稲葉を見つめる新木に、自然と背筋が伸びる。


「稲葉君の異能名が正式に決定したとの通達がありました」

「そんなのあんの?」

「ええ。一口に異能と言っても、その本質は千差万別、同じものは一つとしてありませんから」


 わかりやすい例であげるならば、瞬間移動(テレポーテーション)だろうか。

 現在裏霧学園に通っている生徒の中で、瞬間移動の異能の持ち主は5人。

 しかし、発動条件、距離、回数などが異なり、全く同じ異能の持ち主はいないのだ。

 それ故に裏霧学園では個の判別の意味もかねて、それぞれの異能に名前が付けられる。


「君の異能の名は『無音の槍(サイレントランス)』」

「……轟音、とかじゃなくて?」

「無音です」

「雷なのに!?」


 脳裏に夏の夕立が過った。

 暗く淀んだ空に光が走った後、バリバリと轟音が鳴り響いていた記憶に引っ張られ、どうも言葉と異能が結びつかない。


「付けられた名前は必ず意味があります。なので、これが稲葉君の異能の成長のカギになるはずです」

「音……、音、かぁ」

「ということで」


 新木がぱちりと両手を叩いた。


「これからは実戦で学んでもらいます」

「……実践?」

「もう? 早くない?」

「本部からの指令です。曰く、明後日の午前十一時に一斉停電が起きるみたいですね」

「あいつらも懲りないね」

「ちょ、ちょっと待て!」


 二人だけで通じ合うのはやめていただきたいと、ポコポコと飛び交う新木と琳の会話に待ったをかける。

 まあ、実践という言葉に気を取られていたので、二人の会話の内容はほとんど頭に入ってきてはいないのだが。


「順番に。そう、一から順に、分かりやすく教えてくれ」

「……まず大前提として、中等部に本部の人間ですら手を焼く問題児が三名在籍しています」


 初っ端から投げられた情報からして不穏だ。


「そして彼らの主力の異能は電気系です」


 嫌な予感がする。


「本部の方々は、君の異能は相性がいいのでは、と期待されています」

「さあ、そこから導き出される答えは?」


 白々しい琳の言葉に、「んぐ」と喉から変な声が漏れた。


「俺が、その問題児とやらの相手をしないとだめってこと、か?」

「おおむね正解です」

「といっても、今の稲葉じゃ瞬殺されて終わりだけどね」

「瞬殺って……」


 少し納得がいかなかった。

 たしかに裏霧学園にきて二週間だが、異能とは生まれた時から付き合っていて、それなりに使い方も熟知している。

 その上、自分は高等部生で、相手は問題児とはいえ中等部生。

 さすがに瞬殺と言われるのは心外だ。


「舐めてんでしょ」


 ひやりと、背中に氷柱を差し込まれた気がした。


「学年で言えば、稲葉は高等部生で、相手は中等部生。気持ちはわかんなくもないけどさ」

「ですが、裏霧学園の全ては異能の優劣で決まります。君の異能は精々が中等部レベル。方や彼らの異能は、すでに高等部レベルに達しています。今の君では異能の発動すらさせてもらえず負けるでしょう」


 驕っていたわけではない。

 だが、見くびっていた。


「相手は格上です。だから、実践の中で学んでください」

「……おう」


 明後日。初めてEX同士の戦いを経験する。

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