【その他】役得の宴
「よぉ兄ちゃん、オメェさんも雑務を押しつけられたクチか?」
ブルーシートで寝転がっていると、隣のおっさんに声をかけられた。
酒臭い。彼の周りにはすでに空の酒缶が散乱していた。
「……早いなアンタ、もう飲んでるのか?」
「ガハハ、いいだろぉ! 0次会だよ0次会」
「0次会って量じゃねぇだろ、その空き缶」
「嫁には禁酒を命じられてんだがな! 黙っててくれよ?」
俺が黙ってても明日にゃ秒でバレるだろ。
しかし今日はやけに冷え込むな。
手持ちの寝袋だけじゃ少し心許ない。
「いっそテントでも持ち込むべきだったか?」
「おいおい風情がねぇなあ兄ちゃん。テントなんか屋根があって邪魔だろ」
「……それもそうか」
おっさんにつられて天を見上げる。
確かにこの景色を見ないのはもったいないよな。
満月でライトアップされた満開の桜並木。
ひらひらと舞う桜色の夜風が辺り一面を幻想的に彩っている。
そして隣には呑んべえの男。
まさかおっさん相手にエモさを感じるとはな。
「夜通しでの花見の場所取りも、案外悪くねえかもな」
「おう兄ちゃんも飲め飲め! 今日は俺のおごりだ!」
「んじゃ遠慮なく」
おっさんが笑う。
その手に持つ缶ビールには、一枚の花びらが添えられていた。
【お題:花、テント テーマ:夜桜 文字数:500字】