8.初めてのクエスト
森の奥深く、静寂の中に風の音だけが響く。カナトは抜き足差し足で獲物に近づきながら、狩りの感覚を研ぎ澄ませていた。クエストの対象はウルフ十体の討伐。初めての依頼にしては少し難しい気もするが、ウルフの討伐はバルに何度もやらされてきた。
「一撃で仕留める……」
カナトは木々の間に潜みながら、群れの中の一匹を目で捉えた。地を蹴ると同時に剣を振り下ろし、鋭い刃がウルフの首筋を正確に切り裂く。倒れ込む前に即座に次の標的へ向かう。残りのウルフたちが敵の襲撃に気づき、唸り声を上げながら四方から襲い掛かってくる。
「動きが単純だな」
カナトは冷静に対処しながら、次々とウルフを討伐していった。バルから教わった剣技はすでに体に染みついている。無駄のない動きで十体を狩り終え、剣を振り払うと、鮮血が地面に滴った。
「これで依頼達成か……」
そう思った矢先、森の奥から激しい物音が聞こえてきた。
「何だ?」
木々の間から飛び出してきたのは、血まみれの冒険者たちだった。鎧をまとった大柄な男と、ローブ姿の女。
「おい、逃げろ!地竜が来るぞ!」
男が叫ぶ。女は肩を押さえながら息を荒げている。
「地竜……?」
カナトが言葉を繰り返した瞬間、森の奥が崩れるような轟音が響き渡った。巨大な影が木々をなぎ倒しながら現れる。黒い鱗に覆われた体、鋭い爪、太い尾。A級モンスター、地竜だ。
「B級パーティーが勝てる相手じゃねぇ…が、戦うしか無いか。」
男が盾を構えながら後退する。女は震えながら魔力を込める。
「すまないが黒マントの兄ちゃんも手伝ってくれ。俺達だけじゃあ止めることもできない。」
カナトは剣を構えた。バルから竜種について聞いたことがあったが実物はこれほどなのか。
地竜が咆哮とともに突進してきた。カナトは寸前でかわし、剣を地竜の脚へと突き刺す。硬い鱗が刃を弾くが、わずかに裂けた傷口から血が滲む。
「ナナ、援護を!」
男が叫び、ナナと呼ばれた女が治癒魔法を放つ。カナトも地竜の動きを観察しながら攻撃の隙を探る。男は盾を地面に突き立て、地竜の攻撃を引き受けながらカナトが反撃するタイミングを作る。
「せいっ!」
カナトの剣が地竜の目を狙う。鋭い刃が突き刺さると、地竜が吠えながら暴れ回る。
「今だ、逃げるぞ!」
男の指示に従い、カナトと女は素早く距離を取る。負傷した地竜は怒り狂っていたが、すぐに撤退を選択したのか、その場を去っていった。
「……助かったのか」
安堵の息を吐く。
「ありがとうな兄ちゃん、あんたが居なきゃ今頃俺達は腹の中だったかもな。」
男は苦笑いして握手を求めてきた。
「俺はオルト、見ての通りタンクだ。で、こっちが相棒のナナ、ヒーラーだ。B級パーティの【聖なる盾】っていうパーティを組んでいる。兄ちゃんは?」
「俺はカナト、昨日冒険者になったばかりのF級だ。」
オルトとナナは目を見開いている。自分でもうまく戦えて驚いているのだから他人から見て異常なのは当然かも知れない。
「そうか、そりゃあ昇級間違いなしだな。もうなんて言えばいいかわからねぇ!」
そう言ってオルトは大笑いした。