6.王都への道
バルの家を出たカナトは、黒マントを翻しながら王都へ向かっていた。背中には初めて作った剣を背負って。鍛冶師としての道を絶たれた彼は、今や冒険者として生きる決意を固めていた。
「さすがに数ヶ月鍛えられただけあって、身体が軽いな」
道中、彼は自身の成長を感じながら歩いていた。バルとの修行の日々を思い出す。剣術、格闘、魔物の知識。すべてが血肉となり、彼を強くした。
王都までの道は一本道だが、途中には小さな村が点在している。昼過ぎに通りかかった村では、異様な雰囲気が漂っていた。人々の顔には怯えの色があり、村の入り口には数人の男たちが武器を構えて立っている。
「おい、あんた冒険者か?」
村人の一人がカナトに駆け寄ってきた。その顔には明らかな焦りが見て取れる。
「いや、まだ登録はしてないが……何があった?」
カナトが尋ねると、村人は青ざめた表情で答えた。
「近くの森を拠点にしている盗賊団が、この村に略奪に来るって話なんだ。奴らはもう何度もここを襲ってる……」
カナトは静かに頷くと、村の中を見渡した。確かに人々は怯え、戦う力のない者ばかりだった。
「その盗賊団の規模は?」
「詳しくは分からないが、十数人はいるはずだ……リーダーの『鉄面のゲイル』は剣の達人で、これまで討伐隊も返り討ちにされたって話だ……」
カナトは顎に手を当て、少し考えた後、口を開いた。
「分かった。俺がやる。」
村人たちは驚いた顔をしたが、すぐに希望の色を帯びた表情に変わった。
「頼む!助けてくれ!」
カナトは村人から情報を集め、夜が更けるのを待った。そして、一人で森の奥へと向かった。
盗賊たちのアジトは大きな廃屋だった。物陰に身を潜めながら中を覗くと、十数人の盗賊たちが酒を飲み、大声で笑い合っていた。その中央には、一人の大男が座っている。
「鉄面のゲイルか……」
カナトは静かに息を整えた。暗闇の中に身を潜め、音もなく動く。修行で叩き込まれた技術が自然と体を動かす。
まずは見張りから。背後に忍び寄り、短剣で喉を裂く。悲鳴を上げる間もなく、男は崩れ落ちた。そのまま次の見張りへ。迅速に、確実に仕留めていく。
気づけば、カナトはアジトの中心部までたどり着いていた。残るはゲイルを含めた数人。彼はゆっくりと剣を抜いた。
「何だお前は……!?」
盗賊の一人が驚きの声を上げた。その瞬間、カナトは踏み込んだ。剣を一閃し、敵の腕を斬り落とす。悲鳴が響く。
「チッ……こいつ、ただの旅人じゃねえぞ!」
ゲイルが腰から大剣を抜く。カナトは冷静に相手を見据えた。
「来いよ。」
ゲイルが吼えながら突進する。その攻撃を紙一重で避け、カナトはすれ違いざまに斬撃を放った。ゲイルの腹部に浅い傷が刻まれる。
「クソガキが……!」
ゲイルは執拗に攻撃を繰り出すが、その全てをカナトは最小限の動きで回避する。
カウンターの一撃。その瞬間カナトは剣を伸ばした。
突然剣が伸びたことで避けきれたかったゲイルは膝をついた。
「いつの間に……武器を変えやがった……」
納得がいかない様子で睨みつけるゲイル。
「ただ、俺が鍛冶師ってだけだ。」
カナトは剣を振り下ろし、ゲイルの意識を刈り取った。
翌朝、カナトは村に戻った。
「盗賊団はもういない。」
そう告げると、村人たちは歓喜の声を上げた。感謝の言葉を次々と投げかけられるが、カナトは静かに微笑むだけだった。
「それじゃあ、俺は王都に向かう。盗賊たちは縛ってここに置いておくからあとはまかせた。」
村人たちに見送られながら、カナトは再び歩き出した。
そして数日後——
王都の巨大な城壁が見えてきた。
「ここが……冒険者ギルド本部がある街か。」
黒マントを翻し、カナトは王都の門をくぐった。