21.ワウロフ入国
ワウロフの国境は厳重な検問所で守られていた。鍛冶の国として名高いこの地は、技術流出を防ぐために入国審査が厳しく、特に鍛冶ギルドに所属していない者には慎重な対応がなされる。しかし、
「お、これは……ネラ様じゃねえか!久しぶりだな!」
門番の兵士はネラの顔を見るなり笑顔を浮かべ、まるで旧知の仲のように迎え入れた。カナトが驚いていると、ヘレンが小さく笑いながら言う。
「これが【付与】の名を持つ男の実力ってわけさ。師匠はこの国じゃ知らない者はいないんだよ」
「そういうことだ」
ネラは少しだけ渋い表情を見せながら門番に軽く会釈し、そのまま先を進む。
こうして一行は難なく国境を越え、ワウロフの街へと足を踏み入れた。
街に入ると、商隊と別れることになった。
「本当に助かったよ。これで安心して商売ができる」
「こっちもいい旅だった。気をつけてな」
商人たちと別れた後、一行は鍛冶王・ドルクスの鍛冶場へと向かった。
事件から数年が経っており、ネラとヘレンは何度もこの場所を訪れているが、やはり荒れ果てた様子に目を細めた。
特に、この光景を初めてみるカナトには衝撃的だった。
「これはひどいな…まるでモンスターに襲撃されたみたいじゃないか。」
「そうだな、人間がやったにしては不自然な痕跡だ。でもこの周辺に該当しそうな魔物はいない。」
「今夜はここに泊まるぞ」
「えっ、ここ? 結構ボロボロだけど……寒くないか?」
「慣れたら問題ない」
ネラの言葉にヘレンが肩をすくめる。どうやら彼女もこの鍛冶場に泊まることには慣れているらしい。
カナトは自分の荷物を置いた後、しばらく街を散歩することにした。レンがいた場所を歩いてみたかったのだ。
「レン!?」
突然、背後から声をかけられた。カナトは驚いて振り返る。そこには年の頃三十前後の鍛冶師らしき男が、目を見開いて立っていた。
「いや……人違いだ」
カナトが答えると、男は少し肩を落とした。しかし、次の瞬間。
「兄さんのことを何か知っているのか?」
カナトの問いかけに、男は目を丸くする。
「お前…レンの弟なのか?」
カナトが頷くと静かに息をついた。
「……ついてきな。俺の鍛冶場で話そう」
男の鍛冶場は活気に満ちていた。弟子たちがせっせと仕事をこなし、鉄を打つ音が響いている。男はカナトを客間へと案内し、席に座ると静かに語り始めた。
「俺はレンとともに入国した鍛冶師のアルだ。そして、レンが消える前、最後に行動を共にした人間だ」
「それじゃあ……何か知っているのか?」
カナトの問いに、男は一瞬躊躇したが、意を決したように話し始めた。
「鍛冶ギルドに、誰にも言うなと言われていた……だが、もうそんなことは関係ない。俺は見たんだ。夜中にレンのいた鍛冶場に、魔法使いの女と筋肉質で上裸の男が歩いていくのを」
「魔法使いの女と……筋肉質な男?」
カナトは眉をひそめた。
「間違いない。あれは鍛冶ギルドの者じゃなかった。あの二人が何者なのかはわからないが、レンが消えた夜に現れたんだ」
カナトの胸の奥に不穏な感情が広がっていく。
「ネラたちに知らせなきゃ……!」
カナトは立ち上がると、一目散に鍛冶場へ向かって走り出した。




