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16.決意を再び

カナトはギルドの前で足を止めた。


「……ひどいな」


巨大な爪痕がギルドの石壁に刻まれ、扉の一部が歪んでいる。普段は賑やかなギルド前の広場もどことなく張り詰めた空気に包まれていた。修復作業が進められているが、完全に元通りになるには時間がかかりそうだ。


「カナト!」


オルトとナナがギルドの中から駆け寄ってきた。二人の表情には安堵と疲労が入り混じっている。


「無事だったんだな。ちょっとギルドが荒れてるみたいだけど、何があったんだ?」


カナトが尋ねると、オルトが険しい表情で答えた。


「“竜人”が現れたんだよ。俺たちが森で遭遇した、あの化け物がな。」


「……ここに、か?」


「そうだよ。幸い、大きな被害は出なかったけど、それはちょうど遠征から戻ってきたS級パーティ“五色”がいたおかげだよ。」


ナナが補足する。


「“五色”……あのパーティか。もし、居てくれなかったらどうなっていたことか……」


カナトが拳を握る。五色がいなければ、ギルド本部は壊滅していたかもしれない。


「“竜人”の強さは俺たちが森で遭遇した時の比じゃなかった。五色の連携でなんとか追い払えたが……あいつ、本気じゃなかったかもしれない。」


オルトの言葉にナナも頷く。


「最初は圧倒されていたけど、五色が力を合わせてなんとか拘束できたんだよ。」


カナトは思案しながらギルドの中へと足を踏み入れた。内部も多少の損傷があるが、被害を最小限に抑えたことがわかる。だが、この攻撃の目的が何だったのかはわからない。




ちょうどその時、ギルド内からカナトを呼ぶ声が響いた。


「カナト、ちょうどよかった。副ギルドマスターが話があると言っている。」


受付嬢がそう告げると、カナトは静かに頷いた。


「行ってくる。」


オルトとナナをおいて、副ギルドマスターの執務室へと向かう。ドアを開けると、そこには険しい表情の副ギルドマスターが待っていた。


「来たか。お前が鍛冶場から戻っていたと聞いて急いで呼んだが……何か、収穫はあったのか?」


カナトは深く息をつき、真剣な目で副ギルドマスターを見据えた。


「魔剣事件についての重要な情報を得た。」


部屋の空気が一瞬で張り詰める。


「話してくれ。」


「……親方は、魔剣事件の犯人に心当たりがあると言っていた。その名は“ヴァルノ”。昔、親方と共に鍛冶修行をしていた人物で、並外れた付与の技術を持っていたそうだ。」


副ギルドマスターの表情が険しくなる。


「ヴァルノ……聞いたことがある。確か、当時としては異例の天才鍛冶師だったな。」


「彼が“能力を持つ者の目玉を剣に加工する”という禁忌の技術を生み出した張本人だ。」


「……なんだと?」


部屋の中に重い沈黙が落ちた。カナトの兄が追っていた魔剣事件、その裏にいる男の正体が明らかになりつつあった。そして、その男が今もなお暗躍しているとすれば……。


「副ギルドマスター、俺にこの事件を追わせてくれないか?」


カナトの決意のこもった言葉に、副ギルドマスターはじっと彼を見つめた。そして、深く息をつきながら言った。


「……お前がこの件に関わることに文句はない。ただし、極秘任務としてだ。その内容をオルトやナナに話すことも禁じる。いいな?」


「ああ、ありがとう。」


「これは、思っている以上に危険な話になるぞ。」


「……肝に銘じておく。」


副ギルドマスターは重く頷き、机の上にあった報告書を手に取った。


「それと、これは別件だが……。最近、上級脅威の罪人たちが徒党を組み始めているという情報が入っている。もしかすると、お前が追う事件とも関係があるかもしれん。」


カナトの胸に嫌な予感が広がった。魔剣事件、上級脅威の徒党、そして“竜人”……それぞれが不穏な影を落としながら、徐々に絡み合っていく。


「俺にできることがあれば、なんでも言ってくれ。」


「……期待しているぞ、カナト。」


副ギルドマスターの言葉を背に、カナトは決意を新たにした。

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