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14.事件の真実

カナトは久しぶりに鍛冶場の門をくぐった。昔から変わらない煤けた木の扉、鼻をつく鉄と炭の香り。かつてここで鍛冶の道を志し、そして絶望した日が蘇る。それでも、今のカナトは違う。自分の実力を認め、強くなった実感がある。


「おお、カナトか!」


親方のドンとした声が響く。振り返ると、鍛冶場の奥から親方が顔を出していた。変わらぬ厳つい顔に、少しばかりの驚きと嬉しさが混じっている。


「久しぶりだな、親方。」


「お前が帰ってくるとはな。何か用か?」


カナトは迷わず切り出した。「親方、俺の父と兄が巻き込まれた魔剣事件について、詳しく知りたいんだ。」


親方は一瞬、眉をひそめた。その視線の奥には迷いがある。それでも、カナトの真剣な眼差しを見て、覚悟を決めたように頷いた。


「……お前にはいずれ話さなきゃならねぇと思っていた。」親方は鉄槌を作業台に置き、椅子に腰掛ける。「まず、お前の親父は魔剣事件の被害者の一人だ。そしてレン...お前の兄も、その事件に関わった。」


「兄が……?」


「そうだ。お前がまだ幼かった頃、兄貴は父親の仇を討つために魔剣事件を追っていた。だが、ある日を境に行方が分からなくなった。」


カナトは拳を握る。兄が父の仇を追っていたことも、それを知りながら自分が何も知らなかったことも悔しかった。


「そしてな……事件の黒幕について、俺はある程度の見当がついている。」


「誰なんだ?」


親方は目を閉じて一呼吸置き、静かに口を開いた。「ヴァルノだ。」


カナトの知らない名前。しかし、その名を口にした瞬間、親方の顔には苦い表情が浮かんでいた。


「ヴァルノ……? 誰だ、それ。」


「俺の昔の仲間でな。鍛冶と付与術、どちらの才能も天才的だった男だ。今の魔道具の理論を生み出したのも、ほかでもないヴァルノだ。」


カナトは驚いた。鍛冶屋で扱われる属性付きの剣や魔道具の原理を生み出したのが一人の天才鍛冶師だというのは知っていた。そんな天才が事件に関わっていたのか。


「ヴァルノはな……鍛冶の枠に収まるような男じゃなかった。あらゆる可能性を探り、常識を壊し続ける男だった。だが、あるとき奴はとんでもない発想にたどり着いた。」


親方の顔が険しくなる。


「人間の能力はどこに宿るか知っているか?」


親方の質問の真意が読み取れない。


「目玉、だよな。だから能力を手に入れると目の色が変わるんだし。」


親方は頷いて話を続ける。


「ヴァルノは考えたんだ。人間の目玉に能力が宿るなら、それを使って剣を作れないか……と。」


カナトの背筋が凍った。常軌を逸した発想。その言葉だけで、ヴァルノという男がどれほど異常な存在だったのかが理解できた。


「奴は実際にそれをやった。能力者の死体から目玉を取り、そこから能力を抽出することで能力を持った剣を完成させた。そこからあいつとは会わなくなったから本当にあいつが犯人かはわからないが、常人がこの理論を完成させることはまず無い。」


カナトは言葉を失った。まさか、そんな恐ろしいことが現実に起こっていたとは。


「そして、お前の兄はヴァルノを追っていた。その先で……行方を絶った。」


カナトは拳を握りしめた。兄が今どこにいるのかも分からない。兄の行方を追うことはできるはずだ。


「俺がやる。」


カナトの声は震えていたが、決意は揺るがなかった。


「ヴァルノを追う。兄を見つけ出す。……そして、魔剣事件を終わらせる。」


親方はしばらくカナトを見つめていたが、やがて力強く頷いた。


「そうか……だったら、これを持っていけ。」


そう言って親方が差し出したのは、かつてカナトが使っていた鍛冶槌。手にした瞬間、ずしりとした重みが心地よい。


「鍛冶師じゃなくなった俺が、これを持っていていいのか…?」


「馬鹿野郎。鍛冶はお前の中に生きてる。違う道を進んでも、お前は鍛冶師の心を持ってるんだ。戦え、カナト。そして、お前にしかできねぇ形で道を切り開いてみろ。」


カナトは力強く頷いた。今、ようやく自分の戦うべき理由がはっきりと見えた気がした。


「ありがとう、親方。」


敬語をやめたカナトを見ているとどうしてもレンと重なってしまうな。

そんなことを考えながら去っていくカナトを見送る。


こうして、カナトは再び歩き出す。兄の行方を追い、ヴァルノを突き止めるために。

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