11.副ギルマスと新たな試練
ギルド本部に戻ったカナトたちは、すぐに竜人のウロコを研究部に預けることになった。
「これは……ただのウロコじゃないな。尋常じゃない魔力を秘めてる」
研究部の魔術師たちは、一目見ただけでその異常さを悟った。ウロコから放たれる微細な魔力が、まるで生き物のように動いている。彼らは慎重にウロコを扱いながら、早速分析に取り掛かった。
「頼むぜ、こいつの正体が少しでも分かったらすぐに報告してくれ」
ロウが念を押し、研究部の者たちは頷く。彼らに任せておけば間違いない。
その後、カナトたちは副ギルドマスターの部屋へと向かった。今回の件は重大なため、ギルドの上層部との協議が必要だった。
「待っていたよ、早業のソウ。君たちはカナト君、オルト君、ナナ君だったかな?」
副ギルドマスターのエゼル・フォーサイスは、鋭い眼光で彼らを見つめた。四十代半ばの彼は元A級冒険者であり、実力者揃いのギルド本部でも一目置かれる存在だった。
「まずは報告を聞こうか」
ソウが今回の調査の結果を説明し、竜人の強さが地竜をも超える可能性があること、また戦闘の際にほぼ反応する間もなく吹き飛ばされたことを伝えた。
「なるほど……厄介だな。では、『竜人』は正式にS級脅威として登録する」
副ギルドマスターの言葉に、一同は緊張した面持ちになる。S級脅威、それは国家級の災害に匹敵する存在であり、放置すれば大陸全体を脅かしかねない。
「そして、今後の対策として、冒険者ギルドは情報収集を強化する。特に近頃の治安悪化についても、これは関連があるかもしれない」
「最近、何か異変が起きてるのか?」
カナトが尋ねると、副ギルドマスターは頷いた。
「ああ、ここ数ヶ月で上級脅威に分類される犯罪者たちが徒党を組み始めている。かつてバラバラに活動していた者たちが、何者かに統率されているという噂があるんだ」
「具体的には?」
オルトが問いかけると、エゼルは机の上に数枚の書類を広げた。
「例えば、『魔女』S級脅威に指定されていた強力な魔法使いで、様々な魔法を扱う。彼女は長らく単独で行動していたが、最近になって複数の仲間と共に動いているとの報告がある」
「他には?」
ナナが身を乗り出す。
「『技師』A級脅威の技術者で、神出鬼没な動きをすることで有名だったが、最近彼の作った魔導兵器を受け取った人物がいるとの噂もある。そして、『蛮人』。こいつはB級脅威に分類されていたが、最近A級相当の実力を持ち始めたとも言われている」
「まるで、何者かが裏で糸を引いてるようだな……」
ソウが低く呟いた。
「その可能性は高い。実際、何者かがこれらの脅威をまとめ上げているのは間違いないだろう。しかし、正体は掴めていない」
「なるほど……」
カナトは考え込んだ。もしもこの組織が、王都やギルド本部を狙って動き出したら、大きな被害が出ることは間違いない。
「とはいえ、今は『竜人』の情報が最優先だ。それが何者かの手によって生み出されたものなのか、あるいは偶然現れた存在なのか……」
「ギルドとしてはどう動くつもりだ?」
オルトの問いに、副ギルドマスターは少し考え込んだ後、答えた。
「まずは、調査隊を追加で派遣する。そして、竜人が現れた周辺の村々への警戒を強めるつもりだ。それから……カナト君、君には別件で少し仕事がある。」
「俺に?」
「君の実力は十分分かっている。これまでの戦いぶりを見れば、ただの新人じゃないことは明白だ。君には、次の段階の試練を受けてもらおうと思う」
「試練?」
「ああ。君がB級へ昇級できるかどうかを判断するための特別試験だよ」
カナトはその言葉に驚いた。C級に昇級したばかりなのに、もうB級の試験を受けるというのか。
「最近は優秀な人材が少なくて困っているんだ。そんなときに現れた期待の新人。こちらとしても早く昇級してもらって任務を与えたいわけだ。詳細は後日伝えるが、早ければ数日以内に試験を実施するつもりだ。それまでに準備をしておいてくれ」
カナトは深く頷いた。
「わかった。全力でやらせてもらおう」
副ギルドマスターは満足げに微笑んだ。
「いい返事だ。では、今日はここまでにしよう」
こうして、カナトたちは新たな試練と、広がる不穏な影に向き合うことになった。




