10.竜人
王都ギルドからの正式な調査依頼を受け、カナトはオルト、ナナと共に森の異常を調査することになった。
集合場所には既に一人の冒険者が待っていた。黒髪の青年でS級冒険者「神速」のソウの弟子である、A級冒険者「早業」のソウだった。
「まさかA級冒険者が調査に協力してくれるとはな」
オルトは驚いた様子を見せている。
「地竜が出てくるほどの異変だ。最悪の場合S級の脅威の可能性すらある。面倒くさいがやるしか無い。」
ぶっきらぼうに答えるソウだが、その言葉には確かに他人を思う心がこもっている。
「お前がC級に上がったばかりの新人か?」
ソウがカナトを一瞥する。
「ああ、よろしく頼む」
「まあ、足手まといにはならないでくれよ。今回の調査は普通じゃなさそうだからな」
ソウの言葉にナナが口を挟む。
「カナトは強いわよ? B級の推薦も既に来てるし」
「へえ、そりゃ楽しみだ」
ソウは興味深そうに笑ったが、すぐに真剣な表情に戻った。
「じゃあ出発するぞ。今回は慎重にいく」
調査隊はオルトとナナが地竜と遭遇したという森の奥へと足を踏み入れた。すぐに異変に気づく。木々が引き裂かれ、地面には無数の爪痕。何かが暴れた形跡が残っていた。
「これは……まるで地竜が暴れた後みたいね」
ナナが言う。
「いや、地竜以上の力だな」
ソウが屈み、地面に残った大きな爪痕を見つめる。
「この痕跡、何か分かるか?」
カナトが尋ねると、ソウは腕を組んで考え込んだ。
「正体不明だ。竜のようでもあり、人間のようでもある……これは厄介なことになるかもしれん」
調査を続けていると、突然、森の奥から轟音が響いた。木々がなぎ倒され、土煙が舞い上がる。
「何だ……!」
全員が身構える中、視界の先に現れたのは、龍の鱗を持ちながらも人の形をした異形の存在だった。
「ありゃあ……ドラゴンの変異体か?もしくは竜の能力を持つ人間か?」
レンが呆然と呟く。
「あいつを仮称【竜人】S級脅威とする。」
ソウが険しい顔をしながら言った。
「とにかくギルドに報告だ!オルトといったか、お前が先に戻れ!お前らも先に逃げろ!」
ソウが指示を出す。
レンがギルドへと向かい、残されたカナトたちは急いで王都へと向かう。
その瞬間、「竜人」が動いた。驚くべき速さでソウに飛びかかる。
ソウは早業の名を冠する冒険者。瞬時に身を翻し攻撃を回避した……はずだった。
しかし次の瞬間、彼の体は吹き飛ばされ、地面に激しく叩きつけられた。
「ぐっ……!?」
「ソウ!」
ナナが叫ぶ。
「……避けたはずなのに……吹き飛ばされた……?」
ソウは信じられないといった表情を浮かべる。
しかし、「竜人」はソウにとどめを刺すことなく、地面に鱗を一枚落とし、そのままどこかへ消え去った。
「い、今のは……」
未知の脅威「竜人」との遭遇は、のちに冒険者ギルドに大きな影響をあたえるのだった。




