1.手に入れた能力
鉄を打つ音が鳴り響く。灼熱の炉の前で汗を流しながら槌を振るう男たちの姿。その中に、一人の少年がいた。
カナト——今年で十五歳になった少年は、親方の元で鍛冶の修行を続けていた。彼の親方であるガルスは、たくましい体躯と渋い顔立ちの男で、この町では名の知れた鍛冶師だった。カナトはそのガルスの弟子として、幼い頃から鍛冶を学んできた。
「おい、カナト! 手が止まってるぞ!」
ガルスの怒号が飛ぶ。
「あ、はい!」
カナトは慌てて鉄槌を握り直し、目の前の赤く染まった鉄を打ち始めた。金属が火花を散らしながら形を変えていく様子は、何度見ても心が躍る。鍛冶師として認められ、いつか親方のように立派な武具を作ること——それがカナトの夢だった。
だが、今日はそんな鍛冶仕事よりも気がかりなことがある。
「……カナト、お前、緊張してるのか?」
作業を見守っていた兄弟子のロイが、ニヤリと笑った。
「そりゃ、緊張しますよ……だって、今日は能力の儀の日ですよ?」
「ははっ、まあそうだよな。お前もついに『能力持ち』になるんだ。楽しみだな?」
「楽しみです。でも……ちょっと怖いです」
能力の儀——十五歳になった者が、自分の生まれ持った魔力の特性を知るための儀式だ。この世界では、ほとんどの者が何らかの能力を持って生まれてくる。ガルスは鑑定の能力を持っているので鍛冶師としては超一流だ。そして、カナトも今日、その能力を授かるのだ。
鍛冶師として生きるなら、炎や硬化系の能力が望ましい。だが、もし全く鍛冶に関係ない能力が発現したら? それが不安だった。
「大丈夫だ、カナト。どんな能力が出ようと、お前はもう立派な鍛冶師の卵だ。俺や親方がついてる」
ロイはカナトの肩を叩いた。その言葉に、少しだけ心が落ち着いた。
———
そして、夕方。
能力の儀が行われる神殿には、同じ年の少年少女たちが集まっていた。
「やっぱり緊張するよな……」
「戦いの役に立つ力が出せたら、騎士団に入りやすくなるって兄貴が言ってた!」
様々な期待や不安の声が飛び交う中、カナトも静かに順番を待つ。
「次、カナト!」
司祭が名を呼ぶ。
カナトは深呼吸し、祭壇の前へと進んだ。
「目を閉じなさい。そして、己の魔力を感じるのです」
司祭が呪文を唱えると、カナトの体がふわりと宙に浮いたような感覚に包まれる。そして、次の瞬間——
カナトの脳内に、金属と槌がぶつかった音がなった。
「目が銀色ということは金属系だ。—スキル名は金属変形」
その言葉が、司祭の口から告げられた。
カナトは目を開いた。周囲がざわめいている。
「金属変形……? なんだそれ?」
「もしかして、鍛冶に関係あるんじゃ?」
「すげえ! 鍛冶師向きの能力じゃねえか!」
ロイが誰よりも先に歓声を上げた。
カナトは驚き、そして喜びをかみしめる。
「これなら……鍛冶師になれる!」
カナトの夢が、今、現実になろうとしていた——。