談笑と蹂躙
6人で歩き始めて少し経った頃。俺を含めた全員はこのゲームを始めた経緯、最近あったことなどを話題に出して談笑を始めた。
「私は夫がこのゲームにはまったのをきっかけに始めましたね。戦うのはあまり得意ではないのですが、援護に回り続ければ気づけばかなり上達しちゃいましたね……」
マリーが最初に口を開き、始めた経緯について説明を始める。
「私は、ありのままの自分を見つけたかったというか、現実逃避に近い形でこのゲームを始めました……でも!マリーさんと知り合ってからはなんかうまくいくようになっちゃって」
ミユもマリーの会話が終わった途端、食い気味に話し始める。
「えっと、私ら3人は高校の頃からゲームをやっていたから、そのままプレコロを始めた感じだ。実力差は結構広がったがな」
「ふざけんなよ!お前が俺らを養分にしてレベル上げたからだろ!」
「知るか!死んだお前が悪いんだよ!」
「そもそも殺さなきゃいい話だろ!」
「弱っちいのが悪いだろ!」
「やんのか!?かかってこいよ!!」
「落ち着けお前ら!」
カトリーが鶏むね肉と時給三銭の紹介もついでに行ったが、イジったせいで1人がキレ、口論に発展してしまう。慌てるように止めたおかげでパーティーから抜け出し、武器を取り出して斬りつけるとかいう最悪の事態は避けられたけども、3人は睨みあっている。これでいつもは仲いいってどういう神経してるんだよ……
最後に俺がプレコロを始めた経緯を話す。自己紹介のような形で全員が話し終わったタイミングで示し合わせたかのように数人組のプレイヤーが遠くに見える。
プレイヤー名を確認するためにもう少し近づく必要があるのだが、もう全員が戦闘態勢に切り替えて武器を構えている。
「[聖なる護り]、[一致団結]!」
マリーがバフを唱えると、時給三銭が真っ先に距離を詰め始めようとスキルを唱えた。
「[ハイアクセル]!」
踵のあたりから勢いよく気体のようなものを噴射し斧を構えながら距離を詰めた。
「オラァッ!!」
斧を一度、横に一回転させて振り、相手のパーティーを分断させたところで狙いをつけた1人目掛けて斧を振り下ろす。標的にされた剣を持ったプレイヤーは攻撃を防いではいるものの、不意打ちだったため衝撃を逃がしきれず、パーティーとの距離をさらに離されてしまう。
「押し込めぇ!」
鶏むね肉がそう叫び、二手に分かれたパーティーのうち、左側にいる2人組の元へ攻撃しに走る。カトリーもそれを見てか、
「ミユさん、鶏むね肉の援護を頼みます。マリーさんも彼の援護のためミユさんについて行ってください。はちみつ……言いにくい!先輩は私について来てください!」
残った3人に指示を出したが、俺の名前は言いにくいと先輩に変換され、言い直されてしまった。
カトリーは、自分自身に援護がいらないとでも言うかのようにサポートに徹することのできる2人を必要だと考えている鶏むね肉の元へと移動するよう指示を出した。
ただ、それでも1対3と戦力差は大きいので表面上で五分五分に近づける案山子としての役割を果たさせるために俺を呼んだのだろう。……まぁ、仮にマリーやミユがカトリーについて行ってしまうとマリーを防御するためのプレイヤーに空きが出来てしまうのでそう言った意味でもこうして指示を出したとも考えられるが。
カトリーは3人のプレイヤーの元に双剣を持ち距離を詰める。相手の武器が剣、大槌、杖とリーチで負けているというのに、相手の隙を窺うことをせず、躊躇なく距離を詰めている。
「オラッ!」
男の叫び声と共に剣が振り下ろされたが、彼女は最初から気にしていないかのように左斜め前にステップを踏み剣を回避するとそのまま杖を持ったプレイヤーの元へと走っていく。
「てめぇ!」
男は追撃を入れようと彼女の方へと振り向き、追い始める。3人で囲んで彼女をキルするつもりなのだろう。
たしかに、囲まれる状況が作られてしまえばいくら回避に長けているようなプレイヤーでもその状況を脱するのは難しいだろう。そうならないよう、伸ばしきった[フレイミング]を使用して男の背後に槍を一突き。致命傷にはなっていないがヘイトを稼げただけ十分だ。
[フレイミング]の長さを元に戻し、一歩踏み出しながら槍を左斜め下に振り下ろす。男は、剣を器用に使い攻撃を流したが、剣と槍が振れなくなった瞬間に槍を反対方向に振り、男の腹部に傷を加える。よろけるように2、3歩程下がった動きに合わせて距離を詰め、素早く突きを何回も繰り出す。男は「DEAD」の表示を頭上に浮かべ、ドサッと倒れる。
倒れた男の背後ではカトリーが大槌を持った男と杖を持った女性プレイヤーと激しい戦闘を繰り広げていた。だが、その攻撃はどれも躱されている上、カトリーは的確に反撃を行っているため、逆に2人は追い詰められている。
リーチ差で攻撃が深々と入っていないのが唯一の救いなのかもしれないが、周りには俺含めたパーティーの全員がカトリーの元へ向かっているため、さらに2人は追い詰められているのだ。
「[最悪の日]!」
マリーが低いAGIで必死に走りながらスキルを放つ。確か、あのスキルを使った時は……
そう考えている時、ミユは俺が頭の中で思い描いていた通り、盾を相手の背後にぶつける。スキルを使用しない状態のシールドでの攻撃は基本ダメージが低い。だが、ミユの場合は別だ。彼女の攻撃に合わせて髑髏の目が青白く光り、モヤモヤと煙が溢れ出てくる。
「[死神]!」
そのエフェクトが出てきたほんの少し後、ミユはスキルを発動し、その姿を変える。青い炎に包まれると盾が大鎌へと変わり、赤黒いドレスを身に纏い、仮面を顔に装着する。
「カトリーさん、避けてください!」
その言葉と同時に動き出し、カトリーがその場から離れると、ミユは大鎌を横に振る。大鎌は2人の体を裂くように勢い良く振られ、ミユは2人の奥で立ち止まる。青白い炎が大鎌の軌道を追うように燃え始めると、その炎は2人の胴を分けるように間へと入っていき、貫通する。
炎は胴を通ると、上半身、下半身をゆっくりと包み始め、ほんの数秒で灰へと変貌させ、「DEAD」の表示を出すのだった。




