空を舞う
攻撃を敵の目の前で防がれてしまった以上、このまま踏みとどまっていると追撃が入る可能性があるので、ある程度対応できるように2人から距離をとる。
着地して間もなく距離を詰め直し、相手に息をつかせる間を与えないようにする。
だが、今回は最初とは違い、弓を持ったプレイヤーは剣を持ったプレイヤーとくっつくように位置している。剣を持ったプレイヤーの動きに合わせて弓を持ったプレイヤーも同様に動いているため、弓を持ったプレイヤーは剣を持ったプレイヤーをわざと盾にしているようにも感じる。
持ち替えたことで射程の伸びた槍を生かして、剣の届かないような位置から突きを繰り出す。
攻撃を弾くことで剣を持ったプレイヤーはダメージを受け付けていないが、無理に攻めると背後にいる弓を持ったプレイヤーに攻撃が当たるリスクを恐れてか、積極的に距離を詰めようとしない。
弓を持ったプレイヤーは牽制程度に剣を持ったプレイヤーを盾にしながら矢を放ってくる。突きを放った後、持つとき前に出ている右手を軸に槍を一回転させて弾いている。彼も攻撃を飛ばした時に味方に矢が当たって無駄打ちしてしまうのを避けるためなのか、俺からの攻撃が止み、もう1人のプレイヤーがあまり動かないタイミングを狙って射撃しているように感じる。
それならと俺は槍の真ん中に両手を寄せるようにして槍を近距離で振り回せるような持ち方へと変え、剣を振れば直撃するような距離まで詰め寄る。
「バック!」
弓を持ったプレイヤーに呼びかけるように声をかけ2人揃って後ろへと下がり俺との距離を離す。俺も追いかけるように同じような距離だけ動いてピタリとくっつくように動く。移動を妨害するかのように矢が数発放たれてたが、放たれる位置と俺との間に剣を持ったプレイヤーがいると、障害物として矢がそこで止まってしまうため、多少狙いがずれてしまっている。
さっきパーティーメンバーの当たり判定を無くすかのようなスキルを使っていたが、恐らく効果があるのが1射分なのと、スキルのクールタイムが長いのが原因なのだろう。もしくはここぞという場面までスキルをとっておきたいのか。
どちらにせよこのタイミングでその使ってこないのは有難い。攻撃が捌きやすいからだ。
とは言っても、なかなか決め手に欠けてしまっているのが現状だ。距離をとれば追撃はできないし、近づいたら剣と矢による攻撃を防がなければいけない。腹部や足元に振られる剣を防ぎつつ、頭部や胸元を狙った屋による攻撃も防がないといけない分、攻撃したときに反撃を受けやすく、今のHPでは大胆に動けず、迂闊に攻めることが出来ない。
そんなこと考えていても埒があかないので、折角ならと[空舞]を用いて攻めてみることにする。イメージさえできればどんな出し方もできるので、最初は大きく前に飛び込むことにする。空中に棒状の足場を生成し、それを手で掴み、公園にあるような雲梯のように遠心力を利用して体を全面に押し出し、滞空時間を伸ばすように空高く上がる。
「おいおい!空飛べるなんて聞いてねぇぞ!?」
弓を持ったプレイヤーがそう叫び、矢を放つ。空中で矢を弾き生成した足場を蹴って二人の元へ急接近するように近づく。
目の前に着たタイミングでプレイヤーが剣を振り始めたのを見て、頭上スレスレで足場を生成し、横方向に移動する。そのまま振られた剣は空を切り、大きな隙が生まれる。横方向に移動したことで弓を持ったプレイヤーの背後に回れたため、そのチャンスを生かすべく、足場を生成して蹴り、加速する。
弓を持ったプレイヤーは避けることを諦めたかのように矢を大量に放つ。
「[礫の矢]!」
さっきまで飛んできた矢よりも二回りほど小さい矢が大量に飛ばされる。俺は弾くのをやめ、足場をさらに生成し、上方向へ移動、再度生成した足場を蹴り、距離を詰める。
「やっぱり!そう来るよな![彗星の矢]!」
弓を持ったプレイヤーは剣を持ったプレイヤーに動かないことを指示したのか、剣を持ったプレイヤーを盾にしていない。それどころか、勝機があるかのように背筋を伸ばし、弦をピンと引っ張る。装填している矢が眩く光り、青白くなっていく。目の前で放たれたその矢は今までのどの矢よりも速い速度で動き、俺の元へと届く。
矢が左目を貫くと、視界の左半分が真っ黒に染まり、HPが4割程削られる。残ったHPは4割だったが自然回復でなんとかミリ単位でHPが残っている。
矢の威力でのけ反ってしまった体を前に押し出すように姿勢を正し、再度生成した足場を蹴って距離を詰める。
「こんだけやってまだ生きてんのか!?」
その時、貫かれた左目の部分から何かの液体が零れ、口元につーっと流れていく。血はエフェクトなのできっと痛みをこらえる時に出てきた涙なのだろうと、口周りについた米粒をとるかのように舌を出してぺろりと舐める。
だが、それは涙ではなかった。涙を舐めた時に感じるようなしょっぱい味ではなく、血を舐めた時のような鉄の味と血生臭さが口中に広がる。目元から垂れた血だ。
プレコロは流血表現を避けているはずだ。ユウトが何らかのスキルを使った時に出てきた血涙も多少は液体っぽいが、モザイクのようなエフェクトに変わっている。あんなものが液体なはずがない。
そうして、意図せず1つのスキルが発動してしまう。
体を覆っていた黒い靄のエフェクトに赤色が足され、貫かれなくなったはずの左目がメキメキと音を立てながら回復してしまう。HPもそれと同じタイミングで1割ほど回復した。
「ここまで回復するのか……」
そう心の中で驚き、再度槍を構える。
「まさかここまで追い詰めるとはな!」
一度足場を生成し上空に上がってから声を発する。上空から足場をさらに生成し、再度距離を詰めて2人の元へと向かう。
「だが、これまでだ!」
そう叫び槍を振る態勢に移った時。
「弓ばっか見てたら足元掬われるんだよ!」
剣を持ったプレイヤーから叫び声が聞こえる。彼の剣にはオレンジ色の炎のようなオーラが纏われていた。剣を構え直し、俺との距離を測り、タイミングを合わせて剣を振る。




