一級品のチームワーク
「よっしゃ、フォーメーションAだ!」
剣を持ったプレイヤーがそう叫び彼が前に出て、弓を持ったプレイヤーが後ろへ下がり、俺との距離を取る。咄嗟に思いつきそうな「A」を叫んでいたので、一瞬ふざけているのかと思ったが、2人の連携やこれまでの行動から察するに、そう言った連携が上手いと確信する。こういったプレイヤーと相手することは片方だけに気を取られると、すぐに援護が入るため足元を掬われるようなことが多く、厄介だ。
両方を警戒しつつ、それでいて着実にダメージを与えていかないといけない。一瞬の隙を作るだけでも充分負ける可能性があるため、かなり集中力が必要だ。
槍を構えた体勢のまま、息を吸い、ゆっくりと鼻から吐いて深呼吸を行う。手のひらにうっすらとある手汗で滑らないように槍に強く力を籠める。
「5射いくぞ!」
「ああ!」
奥から聞こえるその声と掛け声に合わせ、全員が動き始める。矢は男の宣言通り、奥から5本が真っ直ぐ飛んでくる。だが、その矢は目の前の剣を持ったプレイヤーに当てないようにするためなのか、作戦の内なのか、俺に直接当てるように撃ったわけではなく、横に避ける移動を封じるような攻撃だった。剣を持ったプレイヤーが距離を詰めてくるので、俺も同様に真っ直ぐ進み距離を詰め、武器を交える。
「3、2、1、ゴー!」
武器を交えた途端に、奥から再度声が響く。すると、途端に拮抗していた力の差が広がっていき、剣を持ったプレイヤーは後ろに倒れ、俺は前に進む。彼はそれを利用し、姿勢を低くし、後ろから撃たれた矢を躱したのだ。
飛んできた矢に反応し回避するため動くこともできる。だが、矢の威力的に剣が直撃するよりかはダメージが低いと考えたのと、恐らく矢を避けると剣が振られ、攻撃が飛んでくるはずなので、わざと矢を避けるのをやめた。意表を突くようにして2人の対応を遅らせることにした。
体を右に傾けるようにして力を籠めてプレイヤーの姿勢をより不安定にさせる。左肩で矢を受け止め、力を入れて体を強張らせることで矢の慣性から来る怯みを軽減する。
「こいつっ!もっと撃っていいぞ!」
「分かった![暴風雨]!」
膝をついてまで姿勢を低くし必死に耐えているが、このまま耐えきることが無理だと悟ったのだろうか、声を上げる。その声に反応した弓を持ったプレイヤーはスキルを使って大量の矢を放つ。
さすがにこの量の矢を受けきればいくらダメージが低かろうと結構な量のHPを失ってしまうだろう。「塵も積もれば山となる」とも言うし。
槍を前に押し出し、プレイヤーをのけ反らせながら距離をとるように離れる。槍を回転させるように振って飛んできた矢を弾いたり、体を器用に動かし、弾くだけで躱しきれない矢を避けたりする。
大量の矢を弾き、避け切り攻撃が終わりに近づいたタイミングで、矢の代わりとして剣とプレイヤーが飛んでくる。
矢を避け切る前に剣が振られたので咄嗟に剣を槍で受け止めてしまったせいで両腕両足様々な部位に矢が掠ってしまった。大きなダメージにはならないが、傷口を集中的に攻撃されてしまえば通常より大きなダメージになる可能性はある。
「巻き込んでいい!とにかく撃ってくれ!」
目の前のプレイヤーがそう叫ぶ。だが、奥のプレイヤーはその言葉を否定する形で話し始めた。
「おいおい、そんなこと俺がすると思うか?何のために新しいスキルを手に入れたってんだ!?[パーティースルー]!」
プレコロ内ではパーティーを組めばフレンドリーファイアはない。ただ、当たり判定は存在するので遠距離攻撃を使うようなプレイヤーにとってはうまく連携が取れなかったり、味方を盾として使われると苦戦するのだろう。そのためにこのスキルを使ったのだろうか。
弓の弦を目の前のプレイヤーの奥からゆっくりと引き、プレイヤーを俺と矢の間に挟むようにしながらも、集中しながら最高の一射を放つ。
風邪を切るような音が一瞬響き、目の前のプレイヤーの胸を貫く。だが、矢にとって当たり判定のないプレイヤーは障害物とならず、すり抜けるように真っ直ぐと俺の元へと向かう。剣を持ったプレイヤーと身長差が殆どない俺にとって、プレイヤーの胸元を狙った攻撃は俺の胸元を攻撃するのと同じだ。
咄嗟に剣を押さえている槍の向きを変えて槍を弾こうとしたが、槍が矢に掠った程度だったようで、威力が落ち、軌道も若干変わったものの、胸元にぐさっと矢が刺さる。急所目掛けて刺さった矢はおれのHPの4割程を削り、プレイヤーとの距離をとらざるを得なかった。
一度距離をとり、口を開く。
「いい連携だな。ならば、少し本気を出さねばな![狂乱の宴]!」
スキルを発動し、ステータスを強化し、武器を持ち替える。剣を持ったプレイヤーが剣を構え直したところで距離を詰め始める。槍を縦に振り下ろし跳躍する。プレイヤーを飛び越えて弓を持ったプレイヤーの方へと距離を詰める。上がったステータスを生かせばたとえ後ろから追われていてもAGIに差が生まれるので追撃を食らいにくいからだ。
「フォーメーションFだ!スキル使う!耐えてくれ!」
「ああ分かったぜ!」
後ろにいるプレイヤーがいるが、そんなことお構いなしに距離を詰める。弓を持ったプレイヤーもどういうことか理解したのか、前衛が近くにいないせいで不利だというのに勝ち筋が見えているかのような曇りのない目つきをしている。
弓を持ったプレイヤーはバックステップを踏みながら追いつかれる時間を稼ぎつつ、矢をひたすらに放つ。ただ、硬直を避けるためか、スキルを使用していないため飛んでくる矢が少なく、次に飛んでくる矢も少し間隔をあけて飛んでくるので、正確な射撃をされていても簡単に弾けてしまう。
「[流星]!」
プレイヤーは一度跳躍し、スキルの硬直による影響を出来るだけ小さくしながらスキルを放つ。放たれた1本の矢は周囲の空気を巻き込むように回転し、大きな音を立てながらこちらへと向かってくる。エフェクトの範囲から明らかに広範囲を狙った攻撃だが、横にステップを踏めば避けられてしまう。
その時、矢が数本飛んでくる。矢を振るには距離が短すぎるので、急所を避けるように右腕をかざし、わざと矢を刺す。HPが1割程削れてしまった。
残りの体力は4割程。[愚者の矜持]を使うことを視野に入れ始めたが、このスキルは極力使いたくない。勝つためにスキルは遠慮なく使うが、このスキルは若干反則じみている気がする。最初に残っている体力の3割が減るのでそのタイミングがチャンスなのだが、そのタイミングを逃せばHPがどんどん回復していき、さらSTRとAGIステータスも50%増えるとか言うバランスの悪い性能をしているし。調整してもらうつもりはないけども。
俺が言いたいこととしては「[愚者の矜持]を使わなくともこの2人には勝てる」という自信があることだ。その気持ちを心に刻みながら再度走り出し距離を詰め始める。
飛んでくる矢を弾きながら距離を詰める。矢を受け止めた時、後ろを見たが、かれの移動速度から考えて、俺が弓を持ったプレイヤーに追いついてから援護に来れるのが7秒程後だ。それでも後衛にとっては長く感じるような時間だ。あと数歩踏み込めば俺の間合いになるという距離まで追いつき、ついにその間合いに入る。最後の抵抗として撃たれた矢を横に弾き、そのまま槍を横に振る。その時。
剣と槍がぶつかる。弓を持ったプレイヤーの武器ではない。
「遅れたな、相棒!」
「遅すぎだがな!十分だ!」
「こっから、勝ち切るぞ!」
剣を持ったプレイヤーは、さっき使っていたであろう[チームユナイティ]を再度発動し、俺の攻撃を防いだのだった。




